レーザーは遠い隣人に届くのか。ブレイクスルースターショット計画

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「ブレイクスルースターショット」計画。何やらSF映画かRPGの必殺技を連想させる響きだが、当たらずとも遠からず、である。
シリコンバレーで名を馳せるロシア人大富豪ユーリー・ミルナー氏と理論物理学者のスティーブ・ホーキング博士らが発表したのは、地球から最も近い恒星へ宇宙船を飛ばす、というもので、計画が「ブレイクスルー・スターショット」(Break through star shot)だ。

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地球に最も近い恒星は「アルファ・ケンタウリ」。4.37光年(分かりやすくすると41.3兆km!)離れたお隣さんの名前である。我々にとってはとてつもなく遠い距離だが、宇宙的に見れば極々近い隣人の扱いになるらしい。
隣人は、A星、B星、プロキシマ、と呼ばれる3つの恒星による三重星系だ。2012年にはB星の周りを周回する岩石惑星を発見したと発表されるなど、地球のような惑星がある事も期待されている。(残念ながら、この時の発表の岩石惑星は惑星では無いかもしれない、との観測データがあることも付け加えておく。)

その隣人を訪問する為に開発されているのが、超軽量宇宙船「ナノクラフト」だ。サイズはなんとクレジットカードよりも小さな物になる予定だという。この宇宙船は「スターチップ」(Star Chip)と名付けられ、小さいながらもカメラ、通信機器、ナビゲーション、推進システムが搭載される。流石にシリコンバレー、こういったものを小型化してチップに組み込む技術には驚かされる。
さて、ここで気になるのはお隣とは言え4.37光年も離れたアルファ・ケンタウリまで、どのようにスターチップを連れて行くのかということだろう。
この宇宙船は、レーザーを推進力として利用するのだ。

クレジットカードよりも小さなスターチップに、一辺が一m四方の帆を取りつけて、地上にレーザー照射装置を配置し100GW/時(1000億W)の電力で強力なレーザー光をその帆に照射することで推進力を得るのだという。これによって宇宙船は、なんと光の速さの20%の速度で宇宙空間を航行することが可能となるというのだ。太陽まで1時間、冥王星まで3日で到達出来る速さだ。
恒星と恒星の間の距離はとてつもなく遠い。地球とアルファ・ケンタウリもまた同様である。恒星間航行には少なくとも光の速さの数分の一程度の速度が必要であると言われており、この動力はそれを充分に満たしている。

cap00033 図1
cap00036 図2

とはいっても、この速度で移動したとしてもアルファ・ケンタウリに到着するには、ざっと20年はかかる計算になる。
では、地球上ではなく宇宙空間にレーザー照射装置を設置すればもっと早く到達出来るのでは、と考えるのは当然かもしれないが(実際、物理学者でSF小説家でもあったロバート・フォワード氏が数十年前に提唱したことがある)これは現在においては実用的でないとされている。
まず、地球周回上の軌道に1000億W級のレーザー照射装置を打ち上げ、維持する為には相当なコストがかかる。更には各国間の政治問題に発展する可能性が濃厚であるということも忘れてはならない。また、補償光学が発達したことも、その理由の一つに挙げられている。補償光学とは既に天文学の世界では広く応用されているが、大気による像の歪みを修正する技術の事で、これを利用すれば地球の大気の影響を最小限に抑えることが可能になるのだ。ブレイクスルー・スターショット計画においては補償光学と合わせて、海抜が高く空気が乾燥した地域にレーザー照射施設を設置することを検討しており、大気の影響を更に抑えることを考えている。

宇宙空間を、人類が未だ経験した事のない速度で航行することになるスターチップ。何の懸念も無いわけではない。
クレジットカードよりも小さく総重量数gの宇宙船とはいえ、そのスピードは光速の20%、秒速に直すと6万km/秒である。宇宙船本体とそれに取りつけられた帆はすさまじいエネルギーを持つことになるのだ。その際に問題になってくるのが宇宙空間に漂う異物との衝突である。
宇宙空間は真空ではあるもののまったく何もない場所ではなく、星が誕生する時に取り残されたヘリウムや水素、或いは酸素や鉄などが極僅かであるとはいえ漂っており、星間ガスと呼ばれている。超高速で宇宙空間を航行した際、これらと衝突することで、通常では考えられない被害が起こる危険性があるのではないか、とされている。
その対処として、衝突の危機を出来るだけ回避すべく、宇宙船の直径を小さくする(前方投影面積を小さくする)、ことで衝突リスクを下げた上で防護材で覆う。また、宇宙船本体を砲弾型にして衝撃を逸らすことも考えられているが、これは機体本体だけでなく、推力とアンテナの役割を担う帆も縮小する必要が出てくる為、一定以上小さくすることは出来ず、限界があるということだ。

ph_thumb 図3

ブレイクスル―・スターショット計画では、アルファ・ケンタウリ到達までが20年。そこに至るまでに、宇宙船とレーザー照射施設の技術的な問題点をクリアし、地上にレーザー照射施設とそれに必要な発電設備を建設、更にナノクラフトを大量生産して衛星軌道上に打ち上げなくてはならない。これらを達成するのにはそれなりの期間を見積らなければならないだろう。しかし、その期間を待っても余りある夢のある話ではないだろうか。
ニューヨークで記者会見したスティーブン・ホーキング博士は、「太陽系にもいずれ寿命が来る。その時が来たら、人類は他の星に移り住むしかなくなる」と語った。太陽系、即ち地球の寿命といわれてもピンと来ないが、惑星間移住、というSFや映画の中だけだと思われていた話が、数十年か百年かの先には、現実として日常的に話される日が来るのかもしれない。そう思うと、何となく楽しみなような気がしてはこないだろうか。なにしろ、太陽系が属する天の川銀河には居住可能な惑星が、数十億個は存在する、という報告もあるのだから。

参考
*Giga Zine
*National Geographic 日本版
*産経ニュース
*engadget
*http://i.gzn.jp/img/2016/08/25/how-dangerous-breakthrough-starshot/cap00033.png(図1)
*http://i.gzn.jp/img/2016/08/25/how-dangerous-breakthrough-starshot/cap00036.png(図2)
*http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/041500139/ph_thumb.jpg(図3)

「執筆者:株式会社光響 緒方」