アインシュタインの予言を実現。ギネス記録のレーザー干渉型重力検出器

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-11-15-15-13

「LIGO」という天文台はアメリカ・ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに設置された巨大な天文台だ。その名LIGOはLaser Interferometer Gravitational-Wave Observatoryの略、日本語に訳すと、レーザー干渉型重力波検出器となる。世界最大の重力検出装置として2002年にギネスブックに登録もされたこのLIGOが、2015年9月14日世界初となる快挙を達成したことを発表した。
アルバート・アインシュタインが一般相対性理論を発表して100年。彼がその中で予言した「重力波」の検出に成功したのである。

質量を持つ物体が存在するとその周囲の空間は歪み、物体が運動するとその歪みが光速で広がっていく。この時空の歪みの伝播=重力波である。簡単に要約するとこうなるだろうか。その存在は1915年から1916年にかけて発表された一般相対性理論の中で予言され、1980年代にハスラーとテイラーらによって間接的に証明はされていたが(この功績により彼らはノーベル物理学賞を受賞している)、直接検出されたのは今回が初めて。

重力波は大質量の物体が加速度運動をすることで放出されるが、観測可能なほどの振幅の重力波が発生するには、相当に大きな質量且つ高密度の物体である必要がある。その為、発生する為の天体運動は限られており、それにはコンパクト連星(ブラックホール・中性子星・白色矮星)の公転、コンパクト連星の衝突合体、中性子星の自転、初期宇宙からの重力波、超新星爆発、等が挙げられる。
重力波の検出は、共鳴型検出器が開発された1960年代にスタートし、現在はレーザー干渉型検出器が主流となっている。
重力波は自由質量に対してその固有距離を変化させる性質があり、そこでレーザー干渉計型検出器ではこの性質を利用し、レーザーを使い鏡までの固有距離を測定する。このとき鏡は自由質量でなければならないため、ワイヤーを使って振り子のように吊られている必要がある。
レーザー干渉計の基本となるのはマイケルソン干渉計といい、マイケルソン干渉計はビームスプリッターでレーザーをL字にわけ、再びビームスプリッターに戻ってきたレーザーを干渉させる装置です。ビームスプリッターの一方に置かれた光検出器上では干渉縞が表れる。干渉計に重力波が到来すると一方の腕の光路長が伸び、もう一方が縮むため、干渉縞の明暗が変化する。よって、この明暗を観測することで重力波が検出できるのだ。

michelson_s 図1
*マイケルソン干渉計の簡略図

gwresponse_s-2 図2
*重力波に対する自由質量の応答

ligo20160211v6_tn 図3
*LIGOではレーザーを4キロメートル先の鏡で反射させている

今回LIGOによって初めて検出された重力波は、10億光年以上離れている2つのブラックホールの合体によって発生した。この現象は人類史上最も高エネルギーな天文現象の一つであり、2つのブラックホール(それぞれ太陽の36倍と29倍の質量)が合体した瞬間には太陽の全質量のおよそ3倍のエネルギーが放出され、この時のエネルギー放出率は全宇宙の可視光によるエネルギー放出率よりも大きなものだったと、国立天文台重力波プロジェクト推進室長ラファエレ・フラミニオ教授は語っている。更に、合体したブラックホールは太陽の60倍の質量の新しいブラックホールとなり、その振動もまた重力波を発生し、それも検出されたという。

3710_signal 図4

*ハンフォード(上)とリビングストン(中)で記録された信号のグラフ。それぞれ太線が測定値、
細線が理論値を表し、横軸は時間、縦軸はゆがみの量(1.0は「1000億の100億倍」分の1)。
一番下は2か所のデータの時間のずれなどを揃えたもの(提供:LIGO Caltech)

動力源の方向は不明だが、リビングストンの方がハンフォードよりも7ミリ秒早く観測されている為、南半球側ではないかと推測される。

この重力波の初検出により、天文学は新たな段階に進むことになる。これまでは宇宙からの電磁波放射を観測することで行われてきた研究が、既に検出されているニュートリノ、宇宙線、そして今回の重力波によって、電磁波の観測だけでは見ることの出来なかった、銀河や天体の内部で起こっている現象を観測出来るようになるのだ。「重力波天文学」の始まりである。
中性子星やブラックホールの遭遇や合体、或いは新しいブラックホールの誕生の観測や、宇宙の始まりが重力波によって解明されるかもしれないのだ。
更に、今後への期待を高めることを書いておく。LIGOは現在、フルパワーで稼働しているわけではないということだ。本来の僅か3分の1程度の感度で稼働しており、順調に改良が進めば2019年までに27倍の広さの宇宙を観測出来ることとなり、今よりも遥かに多くの重力波の検出が見込まれている。
そして、重力波観測は世界中に広がりをみせており、現在アップグレードの為に稼働を停止しているイタリアのVIRGOを始め、日本でも2018年稼働予定(試験運転は2016年開始)のKAGRA、また、全米科学財団とインドとの間で協定が結ばれた為、2023年にインドにも重力波測定装置が設置される可能性がある。殊に、KAGRAとVIRGOが本格稼働を開始すれば、三角測量による重力波発生源の特定が可能となり、その領域を観測できるようになる。その為、三基の連携が非常に期待されているのだ。

追記として。
2016年6月にLIGOは2度目の重力波検出に成功している。そして、重力波検出に貢献した科学者の方々に基礎物理学賞特別賞(The Special Breakthrough Prize for Fundamental Physics)が贈られたことを付け加えておきたい。これは近年成し遂げられた基礎物理学・生命科学・数学における重要な進展を表彰する国際賞のひとつである。お祝いを申し上げるとともに、天文学の更なる発展を期待したいと思う。
アインシュタインの予言から100年余り。宇宙の謎の解明はそう果てしない未来の話では無いのかもしれない。

参考
*GIGAZINE
*国立天文台NAOJ
*Astro Arts
*NATIONAL GEOGRAPHIC
*http://tamago.mtk.nao.ac.jp/spacetime/picture/GW/michelson_s.jpg(図1)
*http://tamago.mtk.nao.ac.jp/spacetime/picture/GW/GWresponse_s.jpg(図2)
*https://www.ligo.caltech.edu/system/video_items/images/35/medium/ligo20160211v6_Tn.jpg?1455163564(図3)
*https://www.astroarts.co.jp/article/assets/2016/02/3710_signal.jpg(図4)

「執筆者:株式会社光響 緒方」