レーザーでスペースデブリを大掃除

1957年10月4日、ソビエト連邦が世界初となる人工衛星スプートニク1号を打ち上げてから半世紀以上。今までに数多くの国が人工衛星を打ち上げ、その存在は現代の生活に欠かせないほどの役割を果たしている。2017年2月までに打ち上げられた人工衛星の数は7600機を超え、今現在運用中の物だけでも4400機以上にのぼる。
では、運用を終了した機体や破損し制御不能となった結果、放棄された機体はどうなるのか。スペースデブリの一部となって地球上空を周回しているのだ。

 図1

スペースデブリ、所謂宇宙ゴミは高度2000km以下に存在し、最もその数が集中しているのは800~850kmの範囲である。そのうち10cm以上の大きさの物は20,000個以上、10cm以下1cm以上の物は500,000個を超えるとされている。それ以下のサイズの物を含めると、その数は2億個にのぼるという。そして当然のように移動しているわけだが、その速度は秒速7~8km。時速にすれば25,000km、音速の約20倍の超高速且つ軌道もそれぞれ異なっている。
これが稼働中の人工衛星に衝突したらどうなるか。或いは宇宙ステーションに衝突したらどうなるか。


 図2
*スペースデブリに衝突されたハッブル宇宙望遠鏡ソーラーパネル。直径5mmの穴と35mmのクレーター

上の写真のように、1cm以下のデブリの衝突でも容易にダメージを受けるのだ。衝突時の秒速は10kmを超えるとされ、デブリのサイズが大きければ大きい程、当然のことながら被害も拡大する。2005年には、1974年に打ち上げられたアメリカのロケット上段と1999年に打ち上げられ2000年に爆発した中国のロケットの破片が南極上空で衝突、2009年には運用を停止していたロシアのコスモス2251号と、イリジウム社が運用中だったイリジウム33号が衝突している(意図しない人工衛星同士の衝突は史上初となった)。また、2013年にはエクアドルが初めて独自に打ち上げた超小型衛星ぺガソがデブリと衝突し制御不能となる悲劇に見舞われている。以上の例はほんの一部であり、小さな損傷を受けるだけのものを含めれば相当な数になる。
しかし、何より問題なのはこの数々の衝突が新たなデブリを続々と生み出していることだ(ケスラーシンドローム)。全ての衝突を回避することは不可能であり、今現在も地球のはるか上空ではデブリが増殖を続けているのである。

当然のことながらデブリの撤去は急務であり様々な策が高じられているが、そんな中、理化学研究所が数センチ以下のデブリ除去に対する画期的な方法を提案している。
これはパリ第7大学、トリノ大学、カリフォルニア大学アーバイン校との共同研究によるもので、簡単に言ってしまえば「レーザーでデブリを大気圏に撃ち落す」というものだ。
スペースデブリに高強度レーザーを照射し、デブリの一部をプラズマ化させその反力によって速度を落とす。速度が落ちれば、デブリは必然的に地球の引力によって大気圏に落下することになり、その多くは地表に到達する前に燃え尽きる事になる。

 図3
*レーザービームによるプラズマアブレーション

 図4
*レーザービームによるデブリの進路変更

ファイバーレーザーを並列に使用することで高輝度、高効率、高頻度のパルスレーザーとして搭載することが可能だ。500kWの高強度レーザーであれば、10cm前後のデブリならば10秒程度の照射で100km離れた場所からでも除去できる。(因みに、500kWがどれ程高強度かというと、アメリカ海軍のレーザー兵器「LaWS」の出力が約30kW。16~17倍の威力だ。)
また、デブリの発見にはEUSO型超広角望遠鏡を使用する。口径2.5m、宇宙線の観測に用いられるこの望遠鏡で大まかな位置を特定し、デブリの方向に探査ビームを射出し、帰還光子シグナルから正確な位置、距離、運動方向を割りだし、レーザーを照射して撃ち落すという手順でデブリを除去して行くという。

 図5
*宇宙用高輝度レーザーシステムを可能とするCANレーザーシステム

 図6
*検出用のEUSO型超広角望遠鏡とレーザー射出用光学系

国際宇宙ステーションで技術実証を行った後、専用の宇宙機に搭載して本格的なデブリの除去作業を行うことを予定している。デブリの密集率が最も高い高度800kmの極軌道に打ち上げれば、5年程でほとんどの小型デブリを除去し、安全を確保できる見込みだ。
計画は国際協力の元、20年以内の実行を目指している。

参考
*理化学研究所
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150421_2/(図3−6)
*FUTURUS
http://nge.jp/2015/04/25/post-102915
*sign
http://sign.jp/4efb3386
*JAXA
http://www.jaxa.jp/
*http://www.kenkai.jaxa.jp/research_fy27/mitou/image/debris_leo_y2_1.jpg(図1)
*http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/6/e/6e30c8a8.jpg(図2)

「執筆者:株式会社光響 緒方」