レーザーによる落書きクリーニング

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世界各地、特に有名な観光地で問題となっている落書き。以外にもその歴史は古く、ローマのコロッセオ、ヴェスヴィオ火山に埋もれたポンペイ等からは約2000年も前の落書きが見つかっている。トルコでも約1500年前の物がアフロディシアスで発見され、エジプトのピラミッドにも「最近の若者はだらしない!」という当時の中高年の職人が書いたと思しき落書きが存在する。
日本国内でも、法隆寺の金色堂に描かれた飛鳥時代の落書きや、当麻寺にも平安時代に描かれたとみられる人物の落書きが残っている。因みにアンコールワットには、江戸時代の武士・森本一房が仏像を奉納した、と書き残したものがある。(ポル・ポト時代に上から塗り潰され、現在はほとんど判読できない。)このような古い時代の落書きというものは、当時の風俗や環境、生活様式を知る上での貴重な資料となっている場合も多く、それ自体が歴史を積み重ねて残ってきた重要な遺跡の一部になっている。しかし、現代の旅行者たちが各地で書き残している落書きはそうはいかない。
今書かれた落書きも1000年2000年経てば貴重な資料となる可能性が無いわけでは無いだろうが、その新たな落書きによる歴史的資料の汚損や破壊、景観の問題に、原状復帰の為にかかる労力、時間、費用等、発生する問題は多岐に渡り、現地の人々を悩ませている。
そして、なにより問題となるのは、その落書きの除去だ。貴重な遺跡や建造物を破損させることなく除去する為に、研磨剤入りのジェット水流や、薬剤によるクリーニング等様々な方法が模索されてきたが、メキシコではレーザーを使用する、という新たな除去方法が試みられている。

 図1
 図2

1991年、世界遺産に登録されたメキシコ・モレリア歴史地区にはスペイン植民地時代の歴史的建造物が数多く残されているが、観光客の増加に伴い落書きもまた増え続け、ついには重要地区指定の「cantera rosa de Morelia」(モレリアのピンク石街)にまで浸食を受けたことで、2008年から落書き撲滅キャンペーンを開始している。
これを受け、スペインのビゴ大学応用物理学部とメキシコのミチョアカナ大学機械エンジニアリング学部が共同でレーザーによる石壁からの落書き除去の方法を実証した。
レーザーは石表面に正確に焦点を合わせられること、パワーを正確に調整できることから石に損傷を与えることなく落書きの除去が可能となると考えられた。使用するのは、小型で丈夫、携帯性に優れ街中での除去作業に適し、変換効率が40%と高効率であることから半導体レーザーが選択され、波長940nm、最大出力1500Wの半導体レーザーと、焦点距離85mmのレンズを使用し、石表面に5.1mm×2.2mmのレーザースポットに照射を行った。

 図3

設定を誤れば落書きが消えないだけでなく石壁自体を損傷する可能性がある為、慎重に広範囲にわたる実験が行われた結果、低い出力で落書きの塗料を炭化させ、その後2度目の照射で炭化した塗料の残留物を除去する、という2段階の方法をとることで、石表面にほとんど損傷を与えることなく落書き前の状態に戻せることが分かった。
研究者達の発表によると、「cantera rosa de Morelia」でのレーザーによる落書き除去の試みが効果的であることが実証された。但し、高温による石壁への損傷という副作用を完全に排除することは現段階では非常に困難である為、興味深い方法、として考えられている。半導体レーザーの小型、高効率、長寿命という利点を考えれば、市街地での実用化は可能になるのではないか、とのことだ。

世界中で問題となっている落書き。ギリシャでは月に1度除去を行い、その費用は1回あたり約270,000円、彫像等に描かれた場合は復元費用約270万円。元の状態に戻せればまだ良いが、不可能なこともある。そうなれば、それは積み重ねられた長い歴史の破壊に他ならない。そして、落書きされたその場所を生活の場としている人々にとっては、自分の家にゴミを撒かれているのに等しいだろう。落書き除去の方法を研究するよりも、落書き自体がされなくなることが最も望ましいのだろうが、そうもいかないのなら、このレーザーによるクリーニングが実用化され、遺跡や街を少しでも早く元の状態に戻せるようになることを願うしかない。

参考

*レーザークリーナーの製品

*http://mohry.web.fc2.com/2005itaria/HP051012-14.jpg(図1)

*http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/09/2013_app.pdf(図2)

*レーザーで歴史的建造物を甦らせる
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/09/2013_app.pd(図3)

*AFP
http://www.afpbb.com/articles/-/2525645?pid=3402864

執筆者:株式会社光響 緒方