恐竜の骨格標本をレーザースキャン。3Dプリンターで復元を効率化

Louisae

*アパトサウルス全身骨格化石標本:カーネギー博物館所蔵

大きな爪、鋭い歯、太く頑丈な骨で組み上げられた巨大な体。絶滅して今はもういない恐竜は、骨格標本の姿で博物館等に展示されていることが多い。見上げるような大きさに、心躍らせたことのある方も多いだろう。
とはいえ、博物館で訪問者を出迎える骨格標本の多くはCASTと呼ばれるレプリカだ。本物の化石が展示されない理由は、一つには、落下等の事故により貴重な化石が損傷することを避ける為。もう一つは、その絶対数の少なさにある。例えば、恐竜の中でも特に有名な、某映画で主役級の出演をしているティラノサウルスは全世界で40体程が発見されているが、その多くは部分的な発見に留まっている。化石自体の入手が非常に困難な為、レプリカの展示になるというのはある意味致し方ないのである。
更に、化石が全身の姿で丸ごと発見される、ということは非常に稀なケースであり、その多くは身体の一部のみ、余程運が良くても、何処かが欠けているという状態での発掘になる。その為、全身骨格標本の為には、他の同種の化石の骨の形やサイズを参考に、欠けた部分の骨を作成することになる。
従来は当然のように研究者たちが手作業でそのクレイモデルを作っていたわけだが、近年はその現場にレーザースキャナーと3Dプリンターが活用され、大きく効率化が図られている。

先史時代の古生物学的収集の本拠地の一つであるサム・ノーブル・オクラホマ自然史博物館は、アパトサウルスの子供の骨格の再現の為に上記を導入している。収集されている15%程の骨に加え、現存する大人のアパトサウルスの骨格標本を元に、喪失している子供の骨を復元する計画だ。
アパトサウルスの大人は、高さ7.6m、長さ13.7m、約300の骨からなる大型恐竜だが、それをデジタル的に作成するのは、従来の彫刻家の様な作業と比較すると画期的なことだった。使用されたレーザースキャナーは、1秒間に100万の点群の取得が可能でわずか9回のスキャンで必要なデータを収集することができた。その後、そのバーチャルモデルから子供のアパトサウルスの喪失した骨を作成する為の補正が行われ、3Dプリンターによって骨格が復元されたが、従来の方法であれば尾骨の脊髄1つの復元に丸1日かかっていたものが、この方法を使えば15~30分程度で終えることが可能だという。実に93~96%もの時間の節約になっているのだ。
レーザースキャンは非接触で行える為、繊細で壊れやすい化石も損傷の心配なく計測することができ、更には展示した状態のままスキャンが可能であることも大きなメリットとなっている。

1850-samnoble-4 図1

1850-samnoble-5 図2 1850-samnoble-6 図3

恐竜の骨格復元の現場で新しい技術が取り入れられる機会は増えており、2013年には、ドイツで恐竜の化石をCTスキャンして作成した3Dデータを元に、正確に骨を復元することに成功しており、運搬時に化石保護の為に使われる石膏を外さずに、つまり、その際の損傷を気にすることなく複製が作成出来る技術が確立されるなど、大きく進歩している。また、オーストリア・ウィーン近郊で発見された約650もの動植物の化石の中の牡蠣をレーザースキャンし、化石層の解析を行うことも予定されている。

最後に、レプリカではなくどうしても本物の化石の骨格標本が見たい、という方は、映画「ナイトミュージアム」の舞台にもなったアメリカ・ニューヨークの自然史博物館がおすすめだ。実物の化石標本が約8割を占めており、貴重な体験となること請け合いである。
尤も、博物館に展示されるレベルのレプリカは、その精巧さにおいて本物と全く遜色ないレベルのものである、ということは勿論付け加えておく。

参考
*FARO
http://www.atengineer.com/pr/faro/20140917002.html

http://www.faro.com/ja-jp/products/3d-surveying/laserscanner-faro-focus/case-studies/2011/01/27/dinosaur-fossil-restoration-using-3d-laser-scanner(図1−3)

「執筆者:株式会社光響 緒方」