レーザー干渉計重力波検出装置LIGO&VIRGO続け様の快挙。連星中性子星の合体による重力波を史上初検出。

LIGOの研究者たちがノーベル賞を受賞して1ヶ月も経たないうちに、再びの快挙が報じられ、天文界が大いに沸きかえっている。

10月17日、LIGO-VIRGO共同チームは、8月17日に2つの中性子星の衝突によって発生した重力波を初めて検出したことを発表した。重力波の検出としては5度目となるが、これ以前の4度は全てブラックホール同士の衝突によるもので、重力波の検出は2秒程度。観測可能な痕跡も残らないものだった。しかし、今回検出された重力波の信号は100秒以上も継続して観測され、これまでとは明確に異なっていた。

LIGO-VIRGO共同チームは全世界の天体観測装置に対し、連星中性子星合体から発生する重力波と予測される信号を検出した、という情報を発信。世界各地の約70の天文台と100基あまりの望遠鏡がこれに応え、情報から11時間程で重力波の発生源を特定し、初めて観測に成功した。中性子星は超大質量の恒星が進化した最晩年の姿で、質量は太陽と同程度だが直径は約10km、大気の厚さ約1mのごく小さな星だが、質量は太陽の10倍以上となる。主成分は名が示すとおりに中性子で構成されている。

超大質量の恒星の核が崩壊すると陽子・電子が圧縮され、中性子・ニュートリノに変化する。この時、ニュートリノは外に放出されるが、中性子は直径10~20kmの核の中に超高密度で押し込められることになる。この核の質量が太陽の3倍未満であれば圧力が核の崩壊を防ぐ壁となり中性子星に、これよりも質量が大きければ崩壊してブラックホールになると考えられている。今回の現象は、螺旋を描くように引き合い、運動していた2つの中性子星(太陽の1.1倍と1.6倍)が衝突し、重力波が放出された。重力波が地球に到達した2秒後に、ヨーロッパ宇宙機関の天文衛星「インテグラル」とNASAの天文衛星「フェルミ」がショートガンマ線バーストの到達を観測している。

ブラックホール同士の衝突は光を放出しないのでガンマ線バーストは起こらない。これにより、ガンマ線バーストは中性子星に起因して発生する、という予測が裏付けられたことになる。重力波発生源の特定が可能になった背景には、3基のレーザー干渉計重力波は検出装置の存在がある。

アメリカ・ルイジアナ州とワシントン州に設置された2基のLIGO。長らく能力向上のための改修中だったイタリア・ピサに設置されているVIRGO。中性子星合体の際、VIRGOは本格稼働を開始しており、2基のLIGOと合わせ、三角測量による発生源の特定が可能となったのだ。特定された南天の小さなエリアは、世界各地の多数の観測装置による観測が行われ、銀河NGC4993付近で新しい星が発見され、X線、紫外線、赤外線、可視光線、電波、と非常に広範囲の波長による世界初の重力波源の観測が行われた。

 (図1)

*観測された天体の可視光赤外線対応写真。光度の変化が見られる。

ウミヘビ座の方向1億3000万光年に発見された天体GW170817は、観測によりキロノヴァであることが判明した。これは、高密度の天体が融合する時に発生する爆発現象で、スーパーノヴァの1/10~1/100程度の明るさを持っている。

 (図2)

*キロノヴァ想像図

この事実により長く議論され続けてきた重元素の発生起源が解き明かされる可能性が出て来た。重元素は超新星爆発によって生成されると考えられてきたが、それだけでは全宇宙に存在すると考えられる量には到底達しないことが分かっていた。重元素の生成には大量の中性子が必要とされる。その為、中性子星の破壊や衝突によっても生成されるのではないか、と予測されていた。

そして、今回の現象の赤外線観測により、爆発によって飛散した破片には地球10,000個分にも及ぶ質量の金属が含まれているという事実が判明した。この量から推測すると、宇宙に存在すると考えられている重金属の総量に十分に達することになる。

2つの中性子星の合体により生まれた太陽の2.6倍の質量を持つ天体が、新たな中性子星なのかブラックホールなのかは今後の観測によって明らかになっていく見通しだが、アリゾナ大学のフェリヤル・オゼル氏によると、誕生直後の中性子星の特徴と質量をからすると、ブラックホールだと考えるのが妥当だという。桁外れに大きな中性子星と考えられなくもないが、物理的な常識から考えてもあまり現実的ではないそうだ。

重力波天文学の快挙が続いている。現在の状況に加え、19年には日本・岐阜県飛騨のKAGRAが本格稼働を開始する。また、LIGO研究室とインド重力波観測イニシアチブで結ばれた協定により、インドにも同レベルのレーザー干渉計重力波検出装置が設置されることが予定されている。そして、LIGOも19年を目途に、現行の27倍の範囲を観測できるよう改良される予定だ。本格化し始めたばかりの重力波天文学だが、今後、どのような成果を見ることができるのか注目して行きたいところだ。

*観測されたGW170817の様子のアニメーション化動画。(薄い孤)重力波、(赤紫色)ガンマ線を発生させた光速に近い速度のジェット、(紫)キロノバから拡がる残骸、(青白から赤)可視光線、赤外線、(青)X線の波長でとらえた地球の方向を向いたジェット(提供:NASA’s Goddard Space Flight Center/CI

参考
*Astro Arts
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9452w170817

*National Geographic
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/101800401/?P=1
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/101800401/ph_thumb.jpg?__scale=w:500,h:281&_sh=070e80ea0c(図2)

*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52247688.html
http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/f/7/f7cbbf26.jpg (Top画像)

*国立天文台 NAOJ
https://www.nao.ac.jp/news/science/2017/20171016-j-gem.html
https://www.nao.ac.jp/contents/news/science/2017/20171016-j-gem-fig.jpg(図1)

「執筆者:株式会社光響 緒方」