洞窟環境の保全と研究の両立。主流となった3Dレーザースキャン。

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何十年か昔、洞窟探索といえば、光の差さない暗闇の空間を限られた灯りだけを頼りに、時には人一人通れるかも怪しいような隙間を這い進みながら、鍾乳石や石筍の長さを計り直径を計り、またある時は広大で起伏まみれの空間を苦心して計測。そうして膨大な量の数字を膨大な時間をかけて記録し、また膨大な時間をかけて収集したデータを整理しなければならなかった。

技術の進歩とは素晴らしいものだ。過去の探検家や研究者が苦心惨憺でやってきたことが、今は機械を洞窟に入れて動き回らせれば、正確で詳細なデータを収集してくれるのだから。
世界各地で3Dレーザースキャンによる洞窟の調査が盛んに行われている。アメリカ・ケンタッキー州マンモスケーブ国立公園にある「Big Bat Cave」、マレーシアの「ニア洞窟」、「ゴマントン洞窟」等、3Dレーザースキャナーを使い高精度で詳細なデータを取得し、調査・研究に役立てている洞窟は多いが、それを身近で強烈に感じることができた事例は、フランスの「ラスコー洞窟」だろう。

『ラスコーの壁画』と言えば、歴史や美術の教科書に載っているウシの壁画を殆どの人が見たことがあるのではないだろうか。

その良く知られた壁画は、実は実物を直接見ることはできない。
『ラスコーの壁画』が地元の少年達によって発見されたのは1940年。一般公開されたのは1948年からだ。そして、約100万人がこの洞窟を訪れ、観光客を呼び込むために、洞窟内は土砂を運び出して整備され、照明がつけられた。結果、人間が持ち込んだ雑菌や、二酸化炭素、入り込んだ雨水や虫や外気によって、長い間保たれてきた洞窟内の環境は激変し、壁画は急速に劣化する事になる。事態を重く見たフランス政府により、1963年、ラスコー洞窟の一般公開を中止し、許可を得た研究者以外の立ち入りを厳しく制限することとなった。

では、一般人は全く見ることができないのか、と言えば、本物のラスコー洞窟は見られないが、精巧につくられたレプリカを見ることは可能だ。日本でも「ラスコー展」として見ることができたそのレプリカは、最新のデジタル技術を駆使し、レーザースキャンやデジタルマッピングで得た詳細なデータから洞窟内部を精巧に再現している。壁面の凹凸の誤差は1mm以下、と正に寸分違わず、といった出来栄えだ。実はラスコーには2から4までの複数のレプリカがあり、これは海外巡回用にフランス政府公認で作成された「ラスコー3」だ。2016年末、フランス南西部ドルドーニュ県のラスコー洞窟近くに、実物を忠実に再現した洞窟壁画国際センター「ラスコー4」では、全長200m程の洞窟を忠実に再現し、3D映像等の設備も備えている。

勿論、本物を見ることができればそれに越したことはない。しかし、人の手が入ることで崩壊が進む古代の遺物は数多い。中国の兵馬俑も色彩の急速な劣化を警戒して、大規模な発掘は中断されている。日本国内でもキトラ古墳の四神図、高松塚古墳の女子群像等、修復・保全に力を尽くしている。以前は、本物が閉ざされてしまえば、写真や文献でしか見ることができなかったものが、最新技術によって詳細に精密に再現された物を見ることができるというのは大きな進歩だ。しかも、本物と違って物によっては直接手で触れられる場合すらあるのだ。これは、壁画等の場合に限らず、普段入ることが物理的に困難な洞窟や鍾乳洞などもそうだ。レーザースキャン等で得たデータから鍾乳石や石筍の形状を3Dプリンターで再現することも勿論可能だ。また、長い年月をかけてその形状を変化させていく鍾乳洞を詳細に記録し続けて行けば、遠い将来にその変化の様子を克明に知ることもできる。例えば、沖縄県武芸洞遺跡では遺跡と共に鍾乳石も3Dレーザースキャナーですべて記録されており、ケイブシステムの解明に役立つことが期待されている。

考古学や人類学の現場では主流となってきているこの調査手法おかげで、今までは保存・保護の目的から、研究者以外は立ち入ることができなかったエリアに一般人が触れることができるようになってきている。多くの人間が立ち入れば、その場の環境に影響を与えることは避けられない。それが良い方向であれば問題は無いが、大半は悪い影響だ。洞窟を3Dスキャンし、レプリカで再現する方法は、人間の接触を最小限に抑え、尚且つ一般の人々の目にも触れることができるようにする、という

参考

*france.fr
http://jp.france.fr/ja/discover/30174
http://jp.france.fr/sites/default/files/imagecache/atf_slider_contentv2/chevaux_chinois_de_lascaux_ii_-_cp_semitour_perigord_klein_0_0.jpg (図2)

*FARO
http://www.faroasia.com/epu/jp/index.php?p=2853?rid=jp010312nr
http://www.faroasia.com/epu/jp/wp-content/uploads/2012/02/niah_3Dview-cave-scan.jpg (図1)

*神秘の鍾乳洞「玉泉洞」
http://okinawacave.ti-da.net/e7676156.html
http://img01.ti-da.net/usr/o/k/i/okinawacave/%EF%BC%93D%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC%E6%B8%AC%E9%87%8Fs%E6%AD%A6%E8%8A%B8%E6%B4%9E2s.jpg (図3)
http://img01.ti-da.net/usr/o/k/i/okinawacave/%EF%BC%93D%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC%E6%B8%AC%E9%87%8F1s.jpg (図4)

執筆:株式会社光響  緒方