ポイント
・水分解用の酸化物光電極中で最も高い太陽エネルギー変換効率(1.35%)を達成
・炭酸塩電解液の使用や酸化物膜の多重積層によって光電極の性能が大幅に向上
・水分解の電解電圧を4割以上低減でき、水分解による水素製造の低コスト化が可能に
概要
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】太陽光エネルギー変換グループ 佐山 和弘 研究グループ長、斉藤 里英 産総研特別研究員らは、酸化物半導体光電極を用いた水分解による水素製造に関して、非常に高性能な積層光電極を開発した。炭酸塩電解液中で、この光電極を重ねて用いることにより、太陽エネルギーを水素エネルギーに変換する反応について、1.35%の太陽エネルギー変換効率を達成した。この値は従来報告されている酸化物光電極の変換効率の約2倍である。今回開発した技術は、太陽エネルギーを利用して水分解による水素製造の際の電解電圧を大幅に低減できる技術であり、将来の低コストの水素製造が期待できる。この技術の詳細は、2012年3月13~15日に国立大学法人 筑波大学(茨城県つくば市)で開催される第7回新エネルギー技術シンポジウムで14日に発表する。
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炭酸塩電解液中の今回開発した高性能光電極(右)と対極から発生する水素の泡(左)太陽エネルギーを水素エネルギーに変換する光電極システム | YouTube動画はこちら |
開発の社会的背景
二酸化炭素の排出を抑えて化石資源に依存しない持続可能な社会を構築するためには、再生可能エネルギーの有効利用が不可欠である。特に再生可能エネルギーの中でも最も膨大である太陽エネルギーの利用は非常に重要であるが、その利用技術は限定されている(図1)。
太陽光発電、太陽熱、バイオマスに続く第4の技術として人工光合成がある。その中でも、容易に作製できる酸化物半導体を用いた光触媒や光電極で水を直接分解して水素と酸素を製造する太陽光水素製造技術は低コストであり、将来の水素社会実現の基盤技術として活発に研究が行われている。太陽電池並みの高い効率で、植物栽培と同じようにシンプルで安価な太陽光水素製造システムが開発できれば、エネルギー問題解決に大きな貢献が期待できる。しかし、これまでに報告されている酸化物半導体光電極を用いて太陽エネルギーを水素エネルギーに変換する効率は低く(酸化物だけでは0.69%。高価な白金を複合したものでは1.1%)、高性能システムの開発が望まれていた。
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