(レーザー関連)富山大学/低出力レーザー治療は触覚を抑制せず、痛みを抑制する可能性を 動物実験で実証

■ポイント

  • レーザーを照射することで、触覚を伝える神経細胞の活動は抑制せずに、痛みを伝える神経細胞の活動を抑制することを、電気生理学的手法※1を用いた動物実験で実証しました。
  • 低出力レーザー治療※2の作用メカニズムや現象の詳細が解明されることで、低出力レーザー治療の効果的な使用方法の確立や、さらなる普及が期待できます。

■ 概要
富山大学学術研究部薬学・和漢系 応用薬理学研究室の歌大介准教授、帝人ファーマ株式会社の石橋直也研究員らの研究グループは、坐骨神経へのレーザー照射が、触覚を伝える神経活動を抑制せずに、痛みを伝える神経活動を抑制することを動物実験で実証しました。本研究成果は、「Biochemical and Biophysical Research Communications」に2024年3月28日(木)に掲載されました。

■ 研究の背景
低出力レーザー治療※2は、痛みの緩和、抗炎症効果、発毛促進、傷の治癒など、さまざまな効果が報告されている治療法です。日本では炎症による疼痛の緩和に保険適用があり、リハビリテーション領域で使用されています。
しかし、低出力レーザー治療がどのように痛みを緩和するのか、そのメカニズムはよく分かっておりません。我々の研究グループはこれまでに、レーザー照射が痛みを伝える神経活動を抑制することを報告してきました。一方で、痛みの治療は痛み以外の機能(触覚や運動機能)を抑制せずに痛みだけを治療することが理想的です。しかし、レーザー照射が触覚にどのような影響を及ぼすのか、報告が少ない現状でした。
そこで本研究では、レーザー照射が触覚を伝える神経伝達にどのような影響を与えるのか、電気生理学的手法を用いて評価しました。次に、過去に報告した痛みを伝える神経活動をレーザーが抑制したデータと、本研究の触覚に対するデータを比較することで、レーザーの治療効果をより詳細に解析しました。

■ 研究の内容・成果
成熟ラットの脊髄後角※3 の深層に記録電極を刺入し、皮膚に機械刺激※4を加えることで脊髄後角深層の神経細胞の発火を記録しました。脊髄後角の深層は触覚を伝える神経線維が入力する部位であり、触覚に相当する神経活動を記録することができます。機械刺激として、決まった圧力を加えることのできるvon Frey フィラメントを使用しました。波長808nm の半導体レーザーを使用し、皮膚を切開して露出させた坐骨神経にレーザーを直接照射しました。
その結果レーザー照射は、触覚を伝える神経活動を抑制しないことが明らかになりました。続けて本研究のデータと、過去に我々が報告した痛みを伝える神経活動をレーザーが抑制したデータを比較するために、神経活動の抑制率を算出しました。その結果、触覚を伝える神経活動の抑制率は約10%であるのに対し、痛みを伝える神経活動の抑制率は約70%でした。このことは、レーザー照射が触覚には影響せずに、痛みだけを治療できることを示唆しています。

今後の展開
低出力レーザー治療が神経活動に与える影響の理解が深まることで、治療が適切に使用され、より効果的に利用できることが期待されます。また、現在は疼痛モデル動物を使用した基礎検討を行っており、低出力レーザー治療がどのように痛みを取り除くのか、今後は治療の仕組みを解明していく予定です。

【用語解説】
※1 電気生理学的手法:

神経細胞の電気信号を直接記録する手法です。感覚の知覚や運動などは、神経細胞の電気信号により制御されています。本研究では、神経細胞の近くで生じる微弱な電気的変化を記録しています。

※2 低出力レーザー治療:
疼痛部位とその周辺部位に温度上昇が小さい低出力のレーザーを照射し、疼痛の緩和を行う治療法です。筋肉、関節の慢性非感染性炎症性疾患における疼痛の緩和を目的に、保険適用されています(医科診療報酬 分類コード・分類名称:J119-3低出力レーザー照射(1日につき))。

※3 脊髄後角:
末梢(皮膚、筋、骨、各種臓器、粘膜など)で受け取った情報(触覚、圧覚、痛覚、温度覚)が最初に入力する中枢領域です。

※4 機械刺激:
物理的な力による刺激です。本研究では、動物の逃避反応を評価するために使われるvon Freyフィラメントを使用し、動物の末梢皮膚にフィラメントを押し当てて、機械刺激を加えました。

【論文詳細】
論文名:

Photobiomodulation inhibits neuronal firing in the superficial but not deep layer of a rat spinal dorsal horn

著者:
Daisuke Uta*, Naoya Ishibashi, Shinichi Tao, Masahito Sawahata, Toshiaki Kume

掲載誌:
Biochemical and Biophysical Research Communications

DOI:
https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2024.149873

【本発表資料のお問い合わせ先】
富山大学学術研究部薬学・和漢系
准教授 歌 大介

TEL:076-434-7511(直通)
Email:daicarp@pha.u-toyama.ac.jp

出典:
https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20240418.pdf

ご参考:
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