生体磁気計測への応用に期待
2022年2月24日
浜松ホトニクス株式会社
本社：浜松市中区砂山町325-6
代表取締役社長：晝馬 明（ひるま あきら）
当社は、長年培ってきた独自の真空技術や成膜技術により、極微弱の磁気を計測できる超伝導量子干渉素子（Superconducting Quantum Interference Device、以下SQUID）と同等の超高感度ながら、液体ヘリウムで冷却する必要のない長寿命の光ポンピング磁気センサ（Optically Pumped Magnetometer、以下OPM）モジュールを開発しました。
本開発品により、脳で発生する微弱な磁場を計測する脳磁計を小型化することで、てんかんをはじめとする脳の神経疾患の診断現場での普及が進むと見込まれます。また、脊髄の異常箇所を測定する脊磁計の実用化が期待されます。本開発品は、京都大学大学院工学研究科小林哲生教授との共同研究により開発しました。
＜開発の背景＞
OPMとは、感度領域内の偏光（※）の度合いを検出し磁場を計測する超高感度の磁気センサです。
てんかんをはじめとする脳の神経疾患の診断では、頭蓋骨の影響を受けにくいことや被ばくがないことなどから、脳で発生する微弱な磁場を計測する脳磁計が利用されています。脳磁計では高感度の磁気計測が求められるため、現在、地磁気の約10億分の1と極微弱の磁気を計測できる磁気センサであるSQUIDが用いられていますが、液体ヘリウムによる冷却装置が必要で脳磁計全体が大型になります。また、液体ヘリウムの定期的な補充などランニングコストがかかるという課題もあり、診断現場での普及が進んでいません。このため大学や研究機関では、脳磁計の小型化、低コスト化に向け、冷却することなくSQUIDと同等の高感度を実現できるOPMの研究開発が進められています。
※ 偏光：特定の方向に偏って振動する光、もしくはその状態。
＜開発品の概要＞
本開発品は、ガラス容器や光源、光学部品、光検出器などをコンパクトに一体化した OPMモジュールです。
当社は、極微弱な光まで検出できる真空管の光検出器である光電子増倍管を開発、製造、販売しています。今回、長年培ってきた独自の真空技術と成膜技術により、ガラス容器内にアルカリ金属とガスを高密度に封入し感度を高めることに成功しました。また、ガラス容器の内側にコーティングを施し、アルカリ金属とガスの密度を保つことで時間経過による感度の低下を抑えました。さらに、独自の製造技術で構成部品をコンパクトにまとめることで、SQUIDと同等の高感度ながら冷却が必要ない長寿命のOPMモジュールの開発に成功しました。また、脳や脊髄などの計測対象により発生する磁場の周波数が異なりますが、本開発品は対象に応じ計測できる周波数の帯域を切り替えることも可能です。
本開発品を応用することで、脳磁計の小型化、低コスト化が実現すると期待されます。この結果、てんかんや外傷性脳損傷などの診断現場において、脳磁計の普及が進むと見込まれます。また、神経が発する磁場の変化から脊髄に異常がある場所を測定する脊磁計への応用も期待されます。今後、よりコンパクトで使い勝手のよい OPM モジュールの開発を進めます。
＜開発品の主な特長＞
１．冷却不要で超高感度、長寿命
光電子増倍管の開発、製造で長年培ってきた独自の真空技術と成膜技術により、ガラス容器内にアルカリ金属とガスを高密度に封入しました。また、アルカリ金属のガラスへの浸食やガスの透過を防ぎながらもレーザを透過させるコーティングをガラス容器の内側に施しました。さらに、独自の製造技術により構成部品をコンパクトにまとめることで、冷却が必要ない超高感度、長寿命のOPMモジュールの開発に成功しました。
２．計測周波数帯域可変
脳や脊髄などの計測対象により、発生する磁場の周波数が異なります。本開発品は、モジュールの外部からコイルで磁場を与え電子スピンの回転速度を変化させることで、計測対象が発する磁場の周波数の違いに応じ計測周波数帯域を切り替えることが可能です。
出典：
https://www.hamamatsu.com/content/dam/hamamatsu-photonics/sites/documents/01_HQ/01_news/01_news_2022/2022_02_24_jp.pdf
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