-未来の情報通信や熱マネジメントを支えるために-
国立大学法人東京農工大学大学院の佐藤建都氏 (2022年3月修士課程修了)、鈴木健仁准教授(工学研究院) は、0.3テラヘルツ (波長:1ミリメートル) で動作する、無偏光・超高屈折率・低反射率の新材料(メタサーフェス 注1)を開発しました。本研究グループが独自に生み出した、一方向のみの偏光に対して超高屈折率・低反射率となる人工構造材料の特許技術(日本特許6596748号、米国特許第10686255号、国際公開番号WO/2021/045022、他)を応用し、全方向の偏光に対して10を超える超高屈折率と1パーセントの低反射率を達成しました。本メタサーフェスは、自然界の材料では実現できない超高屈折率かつ低反射率を、シート状の平面構造で実現しています。本研究グループは、6G(Beyond 5G)通信や7G通信などの未来の情報通信社会(図1)に向けて、本メタサーフェスを用いたテラヘルツ波帯の周波数の電磁波を操るメタレンズアンテナ(注2)と光源の融合に向けた研究を進めています。さらに、本メタサーフェスを赤外域まで高周波化し、熱の放射を制御するサーマルマネジメントへの応用にも取り組んでいます。
本研究成果は、ドイツ科学誌De Gruyter Nanophotonics(IF=7.923)に2023年5月31日に掲載されます。
論文タイトル:Polarization-independent isotropic metasurface with high refractive index, low reflectance, and high transmittance in the 0.3-THz band
URL: https://doi.org/10.1515/nanoph-2022-0788
研究背景
テラヘルツ波帯の電磁波は、10の12乗という非常に高い振動数を有しています。これまで、テラヘルツ電磁波を操るレンズなどの光学部品には屈折率や反射率などの材料特性が固定されている自然界由来の材料(シクロオレフィンポリマー、酸化マグネシウム、シリコンなど)が用いられてきました。もし自然界の材料では実現できない超高屈折率を低反射率で実現できれば、自由自在にテラヘルツ電磁波を操れる新たなレンズやアンテナなどの光学部品を生み出せる可能性があります。本研究グループはこれまでに、テラヘルツ電磁波を操るため、一方向のみの偏光に対して高屈折率で振舞うメタサーフェスを独自に生み出してきました(東京農工大学2021年4月30日プレスリリースなど)。その一方で、全方向の偏光に対して動作する取り扱いやすい超高屈折率・低反射率の新材料も求められていました。
研究体制
本研究は、東京農工大学大学院工学府電気電子工学専攻の佐藤建都氏(2022年3月修士課程修了)、同大学院工学研究院先端電気電子部門の鈴木健仁准教授により行われました。また、本研究の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「熱輸送のスペクトル学的理解と機能的制御」(研究総括:花村克悟)における研究課題「極限屈折率材料の深化と熱輻射アクティブ制御デバイスの開拓」(JPMJPR18I5)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤(B)(21H01839)、同挑戦的研究(萌芽)(21K18712)、公益財団法人東電記念財団、公益財団法人中部電気利用基礎研究振興財団などの支援により行われました。
研究成果
本研究では、どのような偏光方向に対しても超高屈折率・低反射率で振舞うメタサーフェス(図2)を、6G(Beyond 5G)通信での活用が期待される周波数帯である0.3テラヘルツで実現しました。従来の一方向のみの偏光に対して高屈折率で振舞うメタサーフェスの構造からスタートし、電磁界シミュレータを活用した膨大な数の解析を経て、どのような偏光方向に対しても高屈折率で振舞うメタサーフェスの構造にたどりつきました。
メタサーフェスは、テラヘルツ電磁波の波長の3分の1程度の大きさのメタアトム(図3)と呼ばれる正方形金属構造を誘電体基板の表と裏の両面に対称に配置して構成しています。メタアトムの一つ一つは、テラヘルツ電磁波に対して原子や分子のように振舞います。メタアトムの大きさや間隔を設計し、メタサーフェスの比誘電率(注3)と比透磁率(注4)を近い値で、かつ高い値に制御し、自然界には存在しない10を超える超高屈折率で1パーセントの低反射率を実現(図4)しました。テラヘルツ時間領域分光法(注5)による実験(図5) により、作製した独自のメタサーフェスが、0.31テラヘルツで屈折率14.0+j0.49、反射率1.0パーセント、透過率86.9パーセントの材料特性を有することを確認しました。どのような偏光方向に対しても超高屈折率・低反射率で振舞うことは、作製したメタサーフェスをテラヘルツ電磁波の入射方向を軸として回転させて実験することで確認しました。
今後の展開
全方向の偏光に対して超高屈折率・低反射率で振舞うメタサーフェスは、無偏光特性なメタレンズアンテナなどへの応用が進んでおり、6G(Beyond 5G)情報通信、各種センサ機器、X線に代わる安心安全なイメージングなどでの社会展開が大きく期待されます。
本研究グループでは、これらの社会展開に向けて、2023年4月からJST創発的研究支援事業「テラヘルツギャップを切り拓く人工構造材料の深化と7G通信への展開」を開始します。また、本メタサーフェスを数10テラヘルツ以上の赤外域まで高周波化できれば、製鋼スラブなどから排出される熱の放射を特定の方向に集中させることで、熱エネルギーを回収しやすくするなどのサーマルマネジメントへの応用も期待されます。
用語説明
注1 メタサーフェス
原子より大きいが電磁波の波長に対しては微小なサイズの構造体を原子や分子に見立てて配列することで、自然界には存在しない電磁的性質 (誘電率、透磁率) を実現できるスーパー材料 (メタは“超”の意味) のこと。
注2 メタレンズアンテナ
メタサーフェス(注1)によるレンズアンテナのこと。東京農工大学の研究グループが独自に発明したメタレンズアンテナの正式名称は、両面構造ペアカットワイヤーアレーアンテナ。日本特許第6596748号、米国特許第10686255号、国際公開番号WO/2021/045022, 他。
注3 比誘電率
材料と真空との誘電率の比を表す。誘電率は材料の誘電性を表しており、電界にどのくらい反応するかを表す指標。
注4 比透磁率
材料と真空との透磁率の比を表す。透磁率は材料の磁性を表しており、磁界にどのくらい反応するかを表す指標。
注5 テラヘルツ時間領域分光法
材料にテラヘルツ電磁波を入射し、透過した波や反射した波の形から、屈折率などの材料の性質を求める測定方法のこと。
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 大学院工学研究院
先端電気電子部門 准教授
鈴木 健仁
TEL/FAX:042-388-7108
E-mail:takehito(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
◆JST事業に関する問い合わせ◆
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
安藤 裕輔
TEL:03-3512-3526 FAX:03-3222-2066
E-mail:presto(ここに@を入れてください)jst.go.jp
◆報道に関する問い合わせ◆
東京農工大学 総務部 企画課 広報係
TEL:042-367-5930 FAX:042-367-5553
E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
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E-mail:jstkoho(ここに@を入れてください)jst.go.jp
出典:
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/20230530_01.html
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