4月15日、衝撃のニュースが世界を駆け巡った。フランス・パリの象徴の一つ「ノートルダム大聖堂」の大火災だ。
大聖堂の屋根と美しい尖塔を焼き尽くした火災は出火から9時間後に消し止められた。不幸中の幸いというべきか、聖堂内に安置されていた美術品や宗教的物品は運び出されて無事だったがその被害はフランス国民だけでなく世界的にも大きな衝撃を与えた。
1163年、司教モーリス・ド・シュリーによってローマのユピテル神殿跡地に建てられたノートルダム大聖堂は1163年に着工され、1225年に完成した。有名なファサードは1250年に、フライングパットレスは12世紀に現在の様式に建て替えられ、最終的な完成は1345年という歴史的建造物だ。正にゴシック様式の粋を集めたフランス・パリの象徴だ。「ノートルダム」はフランス語で「我らが貴婦人」つまり、聖母マリアを意味し、フランス革命直後の混乱期を乗り越えカトリックのシンボルとして長きに渡って愛されてきた。
ジャンヌダルクの復権裁判、ナポレオンの戴冠、フィリップ4世による初の3部会開催等、歴史的行事が開かれた場所としても有名で、パリの象徴である凱旋門(1836年完成)、エッフェル塔(1889年完成)と比べても段違いに歴史的、宗教的価値の高い建造物でもあった。
マクロン仏大統領は既に再建を明言しており、各国、各機関、ローマ法王を始め世界各地のキリスト教徒、またキリスト教徒で無い国々や団体も支援を表明しており、今後、復旧と再建が進められていくと見られている。10年を超える月日がかかるだろうと予想されているノートルダム大聖堂の再建だが、それにあたって大いに注目されているのが、4年前に完成したノートルダム大聖堂の3Dデータの存在だ。
ノートルダム大聖堂を救うこの3Dデータを作成したのは建築史家のアンドリュー・タロン氏だ。大聖堂の正確なデジタル複製作成の為に2010年から行われたのは、大聖堂内部/外部をレーザースキャナーでスキャニングする一大プロジェクトだ。高機能なレーザースキャナーを使用し、正確なデータを得る為に50回以上も位置を変えて取得されたスキャンデータは10億点にも及ぶ点群データで構成され、ノートルダム大聖堂のほぼ完ぺきな空間地図をデジタル化して完成させた。
*Laser Scanning Reveals Cathedral’s Mysteries | National Geographic
図5:点群データイメージ
(youtube [Leica Geosystems Cyclone 9.0 Auto Alignment Registration Tools]より
タロン氏はノートルダム大聖堂の破損状況を懸念して修復の為の基金を立ち上げるなどの活動も行ってきたが、残念ながら昨年12月に亡くなっている。しかし氏の遺した大きな遺産は、彼の志を引き継いで再建の助けとなってくれることは間違いない。ある建築関係者は、大聖堂再建時に構造的な疑問が生じても、タロン氏の残したデータを参照することで解決できる、と語っている。レーザースキャンによって得られたこのデータは、数年前までは誰にも実現でき出来なかったほど高水準で正確無比なものだという。
ノートルダム大聖堂だけでなく、歴史的建造物を3Dデータ化して残そうという動きは広まっており、殊に紛争や人的被害の大きい地域の遺構や建造物ではNPO団体等の支援を受けてその活動を行っている。日本国内でも古墳や寺社仏閣の3Dデータ化、或いは城の石垣の正確なデータを保存する「石垣カルテ」を作成する動きが高まっている。年月による風化であれ自然災害であれ、或いは事故や過失、人為的な破壊行為であれ、歴史的な建造物や遺構はいずれは失われてしまう物なのかもしれないが、3Dデータ化することで再建や復旧が可能になるというのは、後世にその歴史を伝える為の大きな力になるだろう。
大聖堂の再建に関して、フランス政府は声明を発表し世界的な支援を求めると共に、焼け落ちてしまった尖塔を新たなデザインで建て直す可能性も視野に入れていることを示唆した。先ずは、尖塔を再建するかどうかを検討し、その後再建するならば火災前のデザインにするか、新しいデザインにするかを決定。その後、新デザインの場合は世界中から公募するということだ。歴史的にはノートルダム大聖堂に尖塔の無い期間も確かに存在するので(落雷による炎上を繰り返した経緯や崩落の恐れがあり撤去された時期がある)、必ず再建されるというわけではないかもしれないが、私たちの知る姿のあの尖塔となるのか、それとも新しい尖塔として生まれ変わるのか気になるところだ。何れにせよ、パリのシンボルの一日も早い復旧を願うばかりだ。
最後に、「アサシンクリード」というゲームをご存知だろうか。有名な潜入アクションゲームだが、そのグラフィックが非常にリアルで精巧なことでも知られている。そして同ゲームのシリーズにはフランス革命を題材とした「アサシンクリード ユニティ」というゲームがあり、実写と見紛うばかりにリアルなノートルダム大聖堂が登場する。
その映像の製作の為に使われたデータもまた、ノートルダム大聖堂再建に役立つのではないか、と注目されている。フランスに本社を置く開発会社Ubisoftは50万ユーロ(約6300万円)の寄付を発表すると共に、大聖堂の美しさと荘厳さを感じて欲しい、と「アサシン クリード ユニティ」のPC版を4月25日16時(日本時間)まで無料配布している。
参考
*Forbes
https://forbesjapan.com/articles/detail/26759
*CNN
https://www.cnn.co.jp/world/35135896.html
*engadget
https://japanese.engadget.com/2019/04/18/pc/
https://assets.media-platform.com/bi/dist/images/2019/04/16/5cb4e32ed2ce7847bf31721f-960-480.jpg (図1)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/35/Notre-Dame-Paris-eastside.jpg/800px-Notre-Dame-Paris-eastside.jpg (図2)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f8/NotreDameDeParisChoeurPietaEtRois.JPG/800px-NotreDameDeParisChoeurPietaEtRois.JPG (図3)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/49/GothicRayonnantRose003.jpg/800px-GothicRayonnantRose003.jpg (図4)
https://youtu.be/K_ZIuuqrKX4 (図5)
https://o.aolcdn.com/images/dims?resize=2000%2C2000%2Cshrink&image_uri=https%3A%2F%2Fs.yimg.com%2Fos%2Fcreatr-uploaded-images%2F2019-04%2Fe2b727b0-619b-11e9-bfff-eb6f686cddcf&client=a1acac3e1b3290917d92&signature=d17f68d04f1d36461c0b6cf16c077985ff3c872f (図6)
執筆者:株式会社光響 緒方
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