人類V.S.蚊の最終兵器 レーザーの狙撃手

世界で最も人を殺している生物が何か、ご存知だろうか?

肉食獣であるライオンや虎、日本でもお馴染みの熊、夏になる度に海水浴場に出現と話題になるサメ、想像しがちなどれもが不正解である。
答えは、『蚊』、である。

近年、蚊が媒介する感染症の話題を耳にする機会が増えている。暑い時期に国内を騒がせたデング熱しかり、リオ五輪の際に問題となったジカ熱しかり。
しかし、なにも蚊による病の伝播は昨日今日に始まったものではなく、蚊と人間の戦いは有史以来ずっと続いていると言っても過言ではないのだ。
前記したジカ熱、デング熱の他に、アフリカ、南アジア、東南アジアで50000人規模の感染が認められたことがあるチクングニア熱。アフリカ、ヨーロッパ、中東で発生していたが1999年ニューヨークで発生が確認され、2003年にはアメリカ全土で感染者数9800人超、死者264人を数えたウェストナイル熱。アフリカとラテンアメリカの熱帯地域で発生し、年間20万人が罹患し3万人以上が亡くなっている黄熱病。日本国内ではウィルスの増幅動物である豚の飼育場が住宅地から離れた場所に移動するなどの環境変化により激減したが、世界では3~4万人が罹患し1万人の死者と、9000人の重篤後遺症患者を出す日本脳炎。と、耳にしたことがあるだろう蚊が媒介する病気は数多い。
中でも毎年多くの被害を出しているのは、「マラリア」だ。
全世界で毎年3~5億人が感染し、死者数は150万~270万人、と大きな被害を出しているのだ。予防薬は開発されているものの、現地の医療体制などの問題もあり行きわたっているとは言えないのが現状だ。

各国、地域、企業等が様々な蚊対策を取ってきているが、近年、画期的で面白い撃退システムが開発され話題となった。
そのシステムとは、『レーザーで蚊を狙撃し撃墜する』という前代未聞な代物なのだ。一瞬冗談かと思ってしまいそうだが、発表されたその性能が凄まじい。百聞は一見に如かず、先ずは動画をご覧頂くのが良いだろう。

青紫色の光がレーザー光である。蚊が青く光ったと同時に煙が上がり翅が吹き飛ばされているのをご確認頂けただろうか。動画はスロー再生となっているが、蚊を撃墜するのに要する時間はたったの10分の1秒。正に一瞬の早業。かの有名なゴルゴ13も斯くや、である。しかも、レーザーが狙っているのは蚊の胴体ではなく翅であることにお気付きになっただろうか。このレーザー狙撃システムは蚊の最も重要でありながら最も弱い部分でもある翅を狙い撃つことによって、人間への影響を最低限に抑えつつ低エネルギー低コストを実現しているのだ。(もともとレーザーの使用は瞬間的なので、エネルギー消費は低いのだが)。
このシステムを、建物の周囲に柵のように張り巡らせれば、それだけで蚊は一匹残らず撃墜され、中に入り込むことは出来なくなる。つまり、マラリアを始めとする蚊の媒介する伝染病に悩む地域の医療施設をこのレーザー網で囲めば、その脅威から守ることが出来るのだ。更に、広範囲での設置が可能となるならば、村単位で蚊の脅威を退けることも出来るかもしれない。日常生活の中から蚊の脅威を排除出来るようになれば、感染者数も大きく減るのではないだろうか。

 図1

ちなみにこの装置、蚊とそれ以外の昆虫(例えば蝶や蜂といったような)をきちんと区別して蚊だけを撃墜してくれる。更に驚くべきことには蚊の雌雄すら見分けて撃墜しているのだ。つまり、設定を変えれば蚊以外の虫の撃退にも使用できる。医療施設や感染症に悩む地域だけでなく、害虫に頭を抱える農業従事者や果樹園経営者からも、農薬散布をせず人手も取らずに害虫駆除が可能となり低農薬・無農薬での栽培が出来ると熱い視線が注がれている。

現在特許出願中とのことだがこの特許申請は大きく話題を集めた。もし特許を取得した場合、高エネルギーでミサイルを迎撃するレーザー兵器等もこの特許の対象となってしまうのか、という疑問が生じたためだ。これがどうなるのかは今のところ不明だが、興味を持って見つめる対象にはなりそうだ。
開発社であるIntellectual Venturesは現在製品化に向けた作業を進めているとのこと。色々な意味で先が楽しみな技術であることは間違いない。

 図2

参考
*Gigazine
http://gigazine.net/news/20150726-photonic-fence/(図1,2)

*Intellectual Ventures
http://www.intellectualventures.com/inventions-patents/our-inventions/photonic-fence/

*Business Newsline
http://businessnewsline.com/news/201507230701000000.html

「執筆者:株式会社光響 緒方」