ロシア開発のデブリ撃墜レーザーキャノンにアメリカが懸念を表明

今年6月、ロシアが新たなスペースデブリ対策を発表した。ロシアの国営宇宙開発企業Roscosmos(ロスコスモス)が計画しているのは、レーザーキャノンで地球を取り囲んでいるデブリ達を撃墜する、という何ともSF的な、ある意味ロシアらしさに満ち溢れた豪快なものだ。

スペースデブリをレーザーの熱で蒸発させて撃ち落そう、というこの計画に使われるのは、レーザーアブレーション技術を使った直径3mの半導体レーザーキャノンだ。しかも、既にこのキャノンの土台は既に完成しているのだ。

驚くべきことに、レーザーキャノンとして使われるのは、既存の光学望遠鏡だという。地上から人工衛星や危険なデブリを観測する為に作られた望遠鏡を、一歩進んでデブリの撃墜にまで使ってしまおうという発想が面白い。研究開発にかかる費用の援助の申請も6月時点で終えていたということで、ロシア的宇宙掃除が今後どう展開していくのか気になるところだった。

しかし、9月現在、この計画に対してアメリカから懸念が示されている。確かにこの計画が実現すれば、スペースデブリを地上から撃墜することが可能になるだろう。しかし同時に、稼働中の人工衛星を撃墜することも可能になるのだ。レーザーキャノンの基礎として使われる光学望遠鏡は、前述した通り人工衛星やデブリ観測の為に作られたものだ。当然、それらを識別する光学検出システムを搭載している。つまり、地球を周回している大量の物体の中から人工衛星を特定し、盗聴することや攻撃することもできてしまうというわけだ。

この事実に対して国務審議員のイリム・ポブレッティ氏は、国連軍縮会議でこの懸念をロシアに対して「不穏で悪意がある」と表明した。対するロシアは、当然のことながらそれを否定。今回の計画はスペースデブリを撃墜する為だけのものであること。更に、地球周辺のデブリの状態は、既に危機的状態であり猶予はない、と主張している。

確かに、ロシアの言い分は正しい。地球を周回しているスペースデブリは、ビー玉サイズが約50万個、ソフトボールサイズが約2万個、運用終了済の人工衛星が約2,600基、稼働中のものが約1,000基。これらが平均28,000km/時という速度で飛んでいるのだ。ソフトボール大の物体がこの速度で人工衛星に衝突すれば、故障どころか下手をすれば大破は免れない。ましてや宇宙ステーションに激突すれば、被害はさらに甚大だ。

デブリに破壊された衛星やステーションは、ゾンビに噛まれた人がゾンビ化するホラー映画のように新たなスペースデブリとなり、地球を周回することになり、これが続けば近い将来、地球はびっしりとデブリに覆われ、ロケットも人工衛星も打ち上げることはできなくなると言われている。

しかし、アメリカの懸念も尤もだ。相手はロシアだ。「ロシアの行動は彼らの言動と一致していない確たる証拠だ」というポブレッティ氏の言葉は、国際社会に於けるロシアの歴史を振り返れば、そういう疑念を抱かれるのも仕方がない。また、今年1月に中国が発表したレーザーによるスペースデブリ破砕計画にも、アメリカは同様に懸念を示している。

スペースデブリの問題は、先送りできない所まで迫ってきている。それはアメリカだけでなくどこの国も理解しているのだろうが、ロシアのこの技術がそのまま宇宙戦争時代に発展するようでは目も当てられない。そんなものは映画で楽しむからカッコイイのであって、現実には御免こうむりたいのが一般大衆の偽らざる本音だ。解決はしたいし、この計画が成功すれば非常に有益だということも分かるが、どうにも悩ましい限りだ。

参考
*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52264577.html
http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/3/5/35616a5c.jpg (図1)
http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/6/e/6e30c8a8.jpg (図2)

*GIZMODE
https://www.gizmodo.jp/2018/06/russian-lazer-space-debris.html
https://www.gizmodo.jp/2018/01/china-wants-to-remove-space-debris-using-laser.html

*JAXA 宇宙航空研究開発機構
http://www.kenkai.jaxa.jp/research_fy27/mitou/mit-faq.html#Q5
http://fanfun.jaxa.jp/faq/images/debris_a04_01.jpg (Top画像)
http://spacedebris.jp/mobile/images/syo.png (図3)

執筆者:株式会社光響  緒方