ジャングルに眠る遺跡に光。レーザースキャンによる遺跡発見

カンボジアのアンコールワット。12世紀前にヒンドゥー教寺院としてクメール王朝(9~15世紀)のスーリヤヴァルマン2世によって建立された大規模建造物である。東西1.5km、南北1.3kmの敷地の周囲に幅190mの堀を巡らせ、規模としては奈良の平城京跡に匹敵する広さとなっている。当時の政権の移り変わりによってヒンドゥー教寺院から仏教寺院へと改修され現在の姿として残されているわけだが、このアンコールワットの周囲に、また別の大規模な遺跡が隠されていたことはあまり知られていなかった。

 図1

アンコールワット周辺は深いジャングルに覆われており、アンコールワット自体も一時忘れ去られ、熱帯の樹木に覆われた姿で再発見されている。修復と保存の為に寺院周辺の樹木は伐採されたが、それ以外は現在も鬱蒼としたジャングルが保たれている。このジャングルの中にクメール王朝の大都市が埋もれている、という事実は伝承として残されており、点在するレンガ造りの建造物等は確認されていたが、都市という形での発見には至っていなかった。

その幻の都市、「マヘンドラパルバタ」が発見された。
ジャングルに覆われた遺跡の発見、と言えば、木々や下草に覆われた道なき道を切り開いて進む、というのが定石だ。事実、アンコールワットはそうして見出された。しかし、今回の発見は、そうではない。
発見の為に使用されたのは、ヘリコプターとlidarだ。上空からのレーザーのパルス波を用いたこの方法であれば、遺跡の上に覆いかぶさっている木々に邪魔されることなく地表の様子をほぼ正確にスキャンすることが可能となる。そして調査の結果、アンコール遺跡の北東約40kmの地点に、水路や建造物、道路などが格子状に整備された30平方キロメートル四方に及ぶ巨大な遺構が広がっていることが発見されたのである。

 図2

(右:lidar画像。左:Google Earth衛星画像) 提供・筑波大学

 図3
(上図、右の詳細画像。都市の構造が見てとれる) 提供・筑波大学

2012年に最初の調査が行われ、遺跡の存在を確認した後に再度行われた大規模調査によると、石造りの寺院を取り囲む遺跡群や、生活用水を運んだと見られる複雑に張り巡らされた水路や土手などがスキャンデータによって詳細に記録されている。これは、当時既に灌漑システムが構築され機能していたことを示す重要な事実だ。
レーザースキャンによって得られる詳細な地形データは、これまでの線と点で構成するしかなかった点在する遺跡群を面として捉えることを可能にし、その結果これまで考えられてきた遺跡群の認識を大きく刷新することとなった。

同様の手法で発見された遺跡は、「マヘンドラパルバタ」だけではない。2012年ホンジュラスでは、幻の都市と呼ばれていた「シウダー・ブランカ」(白い街)がジャングルの奥地から発見されたが、その発見は一つの街ではなく複数であり、伝承やこれまでの研究とは異なり「街」ではなく「街々」であったのではないか、という新たな説が注目を集めている。
これまでは木々に覆いつくされた遺跡を見出すことは困難を極めた。もし発見できたとしても、それが独立した一つの遺跡なのか、それとも巨大な遺構の一部なのかを判断するには更なる困難が付き纏った。しかし、上空から木々を貫いて調査する技術を得た現代においてそれは一変し、これから先、更なる発見が大いに期待されている。

参考文献
*https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/236x/8d/09/ce/8d09ceaefb4cfdce6c77256a40faa2ea.jpg(図1)

*Science Portal
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2013/07/20130709_01.html(図2、3)

NATIONAL GEOGLAPHIC日本版
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20150304/437917/?ST=m_news&P=2

「執筆者:株式会社光響 緒方」