8月2日、ドイツZF社が、同じくドイツ企業である車載センサーメーカーのイベオ・オートモーテイブ・システムズに40%の出資を行う、と発表された。
正直どちらの企業名もピンとこないしどこが重要なのかよく分からないのですが・・・。と感じられる方は少なくないと思う。しかし、これは近い将来必ずや我々の身近な物になるであろう、或るシステムに関する出来事なのだ。
まず、ZF社について簡単に書いておくと、所謂ところの大手自動車部品メーカーであり現在世界第2位の売上規模を持っている。変速機や動力伝達部品などに強いメーカーだが、上記の出資により本格的に自動運転車開発に拍車をかけたことになる。
一方、買収されたイベオ社(こちらが大変に重要なのだが)は、ライダー(Light Detection and Ranginngの略)の開発を行っているのだ。
では、ライダーとは何なのか、である。
簡単に言って仕舞えば、レーザー光を使ったレーダーの事だ。電波の反射によって物体の存在する方向や距離を計測するその電波の代わりにレーザーを使用することによって、より精密でより正確な計測を行うのだ。
現在、自動ブレーキや車線維時に使われているのはミリ波レーダーとカメラだが、高速道路における自動運転に関してはその二つで充分に事足りる。事実、2016年夏には日産自動車が商品化を発表している。高速道路上の自動運転が一般化するのはそう遠い未来の話ではなくなってきているのだ。
これを踏まえて、世界各国の企業が目指すのは、「一般道での自動運転技術」の構築である。まさに子供の頃に憧れた未来の世界の光景に、人間は手をかけつつあるのだろう。ライダーはその為の必須アイテムの一つなのだ。
高速道路の自動走行とは異なり、一般道では既存の技術であるカメラによる車線認識や、GPSによる現在地の把握が困難になる場面が必ず出てくる。車線は全ての道路にかすれも消えもせずに書かれているわけではないし、建物の影に入ってしまえばGPSが遮断されてしまうこともあるからだ。その為、どうしても立体的な三次元の地図が必要になる。また、一般道には当然のことながら狭い道があり、電柱や看板もあり、勿論通行人もいる。周囲のそういう諸々との正確な距離を測ることができるのは、今現在ライダーのみなのである。
(*イベオ社ライダー、SCARA B2)
低価格な自動ブレーキなどには既に使用されているライダーだが、その性能は物体の有無とそこまでの距離はわかるが位置や形状を正確に把握するまでには至っていない。その為、それをより精密に検知する為の技術開発が進められているのだ。とは言え、既にその技術自体は存在している。グーグル社や各社が自動運転に使用しているベロダイン社のライダーがそれである。車の屋根部分に搭載し、360度全方向にレーザーを照射することで、物体の位置、距離、形状もかなり正確に把握できる。
ならばそれを使えば良いじゃないか、と思われるだろうが、それができれば世界各国の大手自動車メーカーが血眼になって開発に勤しむ必要はない。大きいのだ。このライダーは。通常車の屋根に取り付けて使用するもので、形状は金属製の折り畳み梯子に無色のパトランプをくっつけたような姿をしている。デザイン性を無視することができない自動車メーカー各社としては、これをこのまま使用するなど以ての外の事態である。更に、重要なポイントは、このベロダインのライダーは非常に高性能なことに比例するように、大変に高額なであることがあげられる。最も高性能なものは7万5000ドル、750万円から780万円の間程度になるだろうか。低価格なものであっても8000ドルはするのである。通常の車体の価格に単純にこの価格を足してみて、すんなりと購入を決められる消費者はそう多くはいないのではないだろうか。企業としては、コストパフォーマンスを無視することもまた、決してできない。
市販車に搭載するにはセンサーの価格を100ドル程度にまで抑えることが理想であるとされている。これを実現するには大きな技術革新が必要とされているのだ。
図1
そして、ZF社が出資したイベオ社である。イベオ社は「スカラ」という小型かつ低価格のライダーの開発に成功しており、この技術取得のための出資であると言われている。現在のところ価格は不明だが発売されれば1000ドル以下に設定されるだろう、ということなので現行の物に比べれば大幅なコストダウンだと言える。
また「スカラ」は小型化により、バンパーやドアに埋め込むことで車のデザイン性をそれほど損なうことなく使用出来る点も嬉しいところだ。
ただし、屋根に取り付け360度を計測可能なベロダイン製とは異なり、全ての方位を一台で網羅することは困難で、車一台につき、4台ほどの「スカラ」を搭載する必要があるとされており、その分のコストが嵩んでしまうだろう。
とは言え、現在のスカラであっても市販車に搭載するということにはまだ遠い。バンパーやドアに内蔵してしまうことで近くに別車両が存在した場合レーザーが遮られ遠方まで届かない、ということもあり得る。なるべく高い位置に設定することが望ましいという現実を考えれば屋根に取り付けることになり、デザイン性の面からも更なる小型化を追求しなければならない。
スカラは内部に回転する鏡を内蔵しており、これを回転させることでレーザーの方向を変えて広範囲への照射を行っているのだが、この仕組みでは小型化に限界があり、低コスト化、また振動などに対する耐久性に関しても有利とは言い難い。このため、こういう部分の縮小、或いは失くしてしまおうという試みが行なわれているところである。
イベオ社においても回転鏡のない新製品の開発をZFと共に行うということだが、詳細はまだわかっていない。
日本企業にも参入の動きはあり、先だっての伊勢志摩サミットのおりにはトヨタが一般道を走行する自動運転車を公開している。また、パイオニアも、センサーだけではなく、カーナビ技術で培った地図技術を応用するなどして自動運転用の三次元地図分野への参入を狙っている。
自動運転技術の開発、導入、普及に伴い、新技術を提げて参入する企業は大小問わず増えていくだろう。幼い頃に描いた未来の実現を喜び眺めているだけでなく、こうした流れに乗り遅れず、寧ろ率先出来るように対応していくことが必要なのだろう。
参考文献
*日経ビジネスオンライン
*http://nge.jp/wp-content/uploads/2014/10/TOYOTA_1-690×473.jpg(図1)
「執筆者:株式会社光響 緒方」