(テラヘルツ関連)京都⼤学他/超伝導針状結晶からのテラヘルツ波放射に成功

―超伝導テラヘルツ光源の機能開発を加速―

概要
京都⼤学⼤学院⼯学研究科の掛⾕⼀弘准教授、物質材料研究機構(NIMS)の齋藤嘉⼈ NIMS ジュニア研究員および⾼野義彦 MANA 主任研究者の研究グループは、ビスマス系⾼温超伝導ウィスカー(針状)結晶を⽤いたテラヘルツ光源の製作に成功しました。同時に、その放射原理を偏波解析により明らかにしました。
⾼精細8K動画などの⼤容量データの⾼速通信のために、現⾏の5G 通信に⽤いられているマイクロ波帯よりも⼗分に⾼い周波数を持つテラヘルツ波帯が関⼼を集めています。その中で、ビスマス系⾼温超伝導体から作られる超伝導テラヘルツ光源が注⽬されています。今回、グループは短時間で育成できるビスマス系⾼温超伝導ウィスカー結晶を⽤いたテラヘルツ発振デバイスの開発に成功しました。超伝導テラヘルツ光源にはこれまで平板状単結晶が⽤いられてきましたが、ウィスカー結晶を⽤いることにより、素⼦作製時間の短縮と多機能化が⾒込まれ、研究開発の加速が期待できます。本研究成果ではウィスカー結晶の発振特性が初めて解明されたことから、光源の発振周波数などの設計が可能になりました。また、電磁界シミュレーションから、超伝導テラヘルツ光源が持つ広い発振周波数範囲を説明するカギを発⾒しました。

研究成果は、2022年11⽉21⽇に⽶国の国際学術誌 Applied Physics Letters 誌に Editorsʼ pick としてオンライン公開されました。

1.背景
テラヘルツ波帯の電磁波は化学分析や⽣体イメージング、とりわけ次世代⾼速無線通信(Beyond5G)応⽤への期待が持たれており、⼩型のテラヘルツ光源のひとつとして超伝導テラヘルツ光源が注⽬されています。しかし、このような光源素⼦は⾼品質平板状単結晶の育成技術と微細加⼯技術を必要とするため、いままでは単結晶育成からデバイス完成まで 1 週間以上の時間がかかっていました。今回我々が着⽬したウィスカー結晶は良質な結晶性を持ち、簡単な実験装置で育成できるだけでなく、その形状から⾼強度発振を⽬指したアレイ化、偏波制御のためのデバイスを短期間で作製することに有利です。研究グループはすでにウィスカー結晶を⽤いたテラヘルツ発振を発⾒していますが、発振周波数を決定するうえで重要な物質定数である屈折率が明らかでないために放射特性を予測することが困難でした。

2.研究⼿法・成果
研究グループは、ウィスカー結晶に固有な屈折率を求めるために、素⼦の発振モードを特定する必要があることに着⽬しました。放射された電磁波の電場は発振モードによって振動⽅向が異なるため、直線偏光⼦を⽤いた偏波測定を⾏うことで発振モードを推定したことが本研究の新しい点です。この結果、ウィスカー結晶の屈折率を特定し、これまで使⽤されていた平板状単結晶と異なることが明らかになりました。これはウィスカー結晶を⽤いたテラヘルツ発振素⼦の設計が可能になったことを意味します。さらに、素⼦の空洞共振周波数から少しずれた周波数でも⽐較的強い電磁波の放射が起きることを三次元電磁場シミュレーションによって⽰しました。これは、超伝導テラヘルツ発振素⼦が持つ、単⼀の素⼦が単⾊かつコヒーレントなテラヘルツ波を広い周波数範囲で発振するという、最⼤の特徴を説明するカギとなる、重要な発⾒と⾔えます。

3.波及効果、今後の予定
本研究の成果は、超伝導テラヘルツ光源の作製プロセスを⼤幅に短縮化できます。さらに、超伝導テラヘルツ光源に適した材料開発に⼤きく寄与できます。化学組成の違いによって結晶の屈折率が異なることが⽰されたことから、適切な材料を選ぶことによってテラヘルツ発振の周波数を⼤幅に拡⼤することができます。また、今回新しく⾒出した超伝導テラヘルツ光源の発振機構は、ウィスカー結晶特有の形状から得られる新たな機能性とあわせて、例えば偏波制御、⾼密度アレイ化による⾼強度放射が可能な超伝導テラヘルツ光源の社会実装を促進すると期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、⽇本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(20H02606, 20H05644, 19H02177)及び⼆国間交流事業(JPJSBP120214602)、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(JPMJMI17A2)の⽀援を受けて⾏われました。

<⽤語解説>
1. テラヘルツ波

電磁波のうち、電磁場が 1 秒間に振動する回数(周波数)が1011から1013回、波⻑が 3 ミリから0.03 ミリのもの。情報通信に⽤いた場合、原理的にはマイクロ波の 1000 倍程度の密度の情報を送ることができる。また、新たな化学分析⼿法として期待され、⽔分に対する吸収が強いことから⽣体イメージングに適する。

2. ビスマス系⾼温超伝導体
1988 年に現在の物質材料研究機構で発⾒された、常圧において最⼤ 110 ケルビン(-160 ℃)で超伝導(電気抵抗がゼロ)を⽰す化合物。超伝導線として数社より市販されており、国内外で研究・試験⽤設備に実装されている。

3. ウィスカー結晶
針状に細⻑い形状を持つ結晶。ビスマス系超伝導体では、⼀定の条件下⾼い結晶性で急速に成⻑し、そのテープ状の外形から結晶⽅位が容易に特定できる。

4. 偏波
電磁波の電界が振動する⽅向・状態のこと。電磁波の電界は進⾏⽅向に対して垂直な⾯の中で振動する。垂直⾯内で電界が⽔平⽅向に振動している場合は⽔平偏波、鉛直⽅向に振動している場合は垂直偏波、回転している場合は円偏波と呼ばれる。実⽤電波では⽤途ごとに管理されており、地上放送には⽔平偏波、携帯電話には垂直偏波、衛星放送、ETC などの移動体間の通信には円偏波が利⽤されている。

5. 屈折率
光などの電磁波が真空中と物質中を進む速さの⽐の値。⼤きな屈折率を有する物質に電磁波を通すことによる波⻑短縮効果でアンテナの⼩型化が可能となる。屈折率の異なる物質の境界で電磁波は屈折や反射を起こす。

<研究者のコメント>
(掛⾕)この成果でウィスカー結晶デバイスに関する機能設計が可能になりました。すでに機能が設計できるところまで到達しているバルク結晶と合わせて超伝導テラヘルツ光源材料の選択肢と可能性が増えたので、今後の研究の進展がとても楽しみです。
(齋藤)ウィスカー結晶は、簡便に育成できかつバルク単結晶に劣らない結晶性を備えているため、マイクロエレクトロニクス分野への応⽤に⾮常に適しているといえます。今回、テラヘルツ発振を実証したことで更に重要性が⾼まったのではないでしょうか。また、超伝導テラヘルツ光源の開発における裾野を広げられたと考えています。
(⾼野)本デバイスの基礎となる、ウィスカー⼗字接合は、ウィスカー結晶を⽤いることにより、簡便に作製できる固有ジョセフソン接合として開発したものです。これに、スリット状の凹みを加⼯するだけで、テラヘルツ光源を作製できる事が分かりました。さらに、細⻑いウィスカーの形状と屈折率を利⽤して、発振周波数や偏光特性等を設計することが出来るようになったので、素⼦の応⽤に向け⼀歩進んだと思います。

<論⽂タイトルと著者>
タイトル:
”Polarization analysis of the terahertz emission from Bi-2212 cross-whisker intrinsic Josephson junctions and its refractive index”

著者:Y. Saito, I. Kakeya, Y. Takano

掲載誌:Applied Physics Letters

DOI : 10.1063/5.0123290

<参考図表>


2 枚のビスマス系⾼温超伝導体ウィスカー結晶から作成したデバイスの電⼦顕微鏡像。下側のウィスカー結晶の⾚枠で囲まれた部分でテラヘルツ波が⽣じ、空間に放射されます。右図は、デバイスに集積されたビスマス系⾼温超伝導体の結晶構造と超伝導の強さを概念的に⽰しています。

本研究の⾼温超伝導ウィスカーデバイスからテラヘルツ波が放射されることを⽰した偏波解析計算結果のスナップショット。⽮印は電界の⼤きさと⽅向を⽰し、発振周波数 0.73 テラヘルツの半周期、-0.68 ピコ(10-12)秒ごとに反転する。

出典:
https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/research/topics/221121_apl_kakeya_webj.pdf

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