東京大学物性研究所の尾崎文彦大学院生(研究当時、現在:宇宙航空研究開発機構)、田中駿介助教(研究当時、現在:産業技術総合研究所)、𠮷信淳教授、谷峻太郎助教(研究当時、現在:理化学研究所)、小林洋平教授、松田巌教授、尾崎泰助 教授らの研究グループは、東北大学の山本達教授、京都大学の小板谷貴典准教授らとの共同研究により、レーザー加工と顕微分光を用いることで、触媒活性サイトが存在していると考えられてきた二硫化モリブデン(MoS2)のエッジ表面における電子状態と化学反応を選択的に直接観測することに成功しました。
代表的な層状物質であるMoS2は水素化脱硫などの触媒として工業的に広く使われており、その活性点は層が切断されたときに露出するエッジに存在すると考えられています。しかし、分光測定が可能な広さを持つきれいなエッジ表面を作製することが難しいため、エッジ面に特有の電子状態や表面反応を選択的に直接観測することは困難でした。
本研究では、MoS2単結晶を超短パルスレーザーによって基底面に垂直に切断することで、きれいなMoS2エッジ表面を作製し(図1)、そのエッジ表面について顕微ラマンおよび顕微光電子分光測定を行いました。測定された価電子帯光電子スペクトルからエッジ表面特有の金属的な状態がフェルミ準位近傍で観測され、内殻スペクトルからはエッジ表面では配位不飽和なMoが存在していることが明らかになりました(図2)。さらに、水蒸気に曝した場合、基底面では反応が起こりませんが、エッジ表面に存在する配位不飽和Moサイトにおいて室温で水分子が解離することを、放射光を利用した雰囲気光電子分光(AP-XPS)で実証しました。加えて、エッジ面の電子状態と化学状態をファンデルワールス力を含めた密度汎函数理論計算により行い、実験データを定量的に解析しました。

本研究は、物性研が得意とするレーザー加工、放射光光電子分光、第一原理計算を駆使して、MoS2エッジ表面の電子状態と表面反応を直接観測・解析した成果です。今まで選別して観測することが難しかった原子層物質エッジ面という特殊な表面の物性と反応を実験的に研究するための方法と反応場を新たに提供するものです。本研究グループはMoS2だけでなく他の原子層物質(グラファイトなど)にも研究対象を広げています。
本成果はアメリカ化学会が発行する「The Journal of Physical Chemistry C」誌に2025年10月16日にWeb掲載されました。なお、本研究に関連して、尾崎文彦氏は日本物理学会第77回年次大会で学生優秀発表賞を受賞しています。
発表論文
- 雑誌名:
 The Journal of Physical Chemistry C
- 論文タイトル:
 Selective Observation of Edge-specific Electronic States and Chemical Reactivity of Laser-cut MoS2 Surfaces
- 著者:
 Fumihiko Ozaki, Shuntaro Tani, Shunsuke Tanaka, YoungHyun Choi, Kozo Mukai, Wataru Osada, Masafumi Horio, Takanori Koitaya, Susumu Yamamoto, Iwao Matsuda, Taisuke Ozaki, Mitsuaki Kawamura, Masahiro Fukuda, Yohei Kobayashi, Jun Yoshinobu
- DOI:
 10.1021/acs.jpcc.5c04876
出典:
 https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=28505  !--NoAds-->
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