~AI を活用した自動車教習で安全な交通社会の実現へ貢献~
1.発表者:
加藤真平(東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻 准教授)
武田一哉(名古屋大学大学院情報学研究科知能システム学専攻 教授)
2.発表のポイント:
- 自動車教習所の教習指導員に着目し、その運転行動をルール化した運転モデルを開発した。
- 開発したモデルと自動運転技術を用いて危険回避の手法を確立し、AI 教習システムとして製品化した。
- AI教習システムを自動車教習所に適用することで、教習指導員の高齢化などさまざまな課題の解決につながると期待される。
3.発表概要:
東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平教授らの研究グループは、「完全自動運転における危険と異常の予測」についての研究を行っている。今回、その一環として、模範的運転モデル対象として自動車教習所の教習指導員に着目し、その運転行動をルール化した運転モデルを開発した。また、自動運転技術を用いてリアルタイムに得られる位置推定や障害物検知の結果を評価指標とすることで、開発した運転モデルを使い、ドライバーの運転行動の定量的な評価および評価に基づく危険予測を可能とさせた。
この予測に応じて自動でブレーキ制御を行うことで危険を回避する手法を確立し、これら評価手法と危険回避手法をシステム化することでAI教習システムを製品化した。自動車運転教習所は教習指導員の高齢化や採用難による人材不足により、新規免許取得者や、高齢者講習の予約待ち(平均2~3か月)が問題となっている。製品化したシステムを自動車教習所に適用することは、教習指導員の業務負荷軽減のみならず、新規免許取得者や高齢運転者の受入拡大につながると期待される。
4.発表内容:
本研究グループは、科学技術振興機構(JST)CREST において「完全自動運転における危険と異常の予測」についての研究に取り組んできた。自動運転に必要となる模範的な運転モデルの構築には、運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)を定義すること、かつODDにおけるシステムの振る舞いを定義した無数のユースケースとシナリオに対応することが難題とされてきた。本研究では模範的な運転モデルの対象として自動車教習所の教習指導員に着目し、ODDを自動車教習の範囲に限定し、かつ教習指導員による評価項目のみを評価指標とすることで、特定のユースケースとシナリオに基づいた運転モデルの開発に成功した。
カメラやレーダーを用いた従来の自動運転では、人間の運転モデルを再現できるほどの位置推定精度や障害物検知精度を達成できなかった。本研究では、LiDARと呼ばれる自動運転に特化した高精度なセンサー(図1)および、LiDARの観測データとPCD高精度地図(図1)を照らし合わせることで位置推定や障害物検知を行う自動運転ソフトウェアであるAutowareを導入し、センチメートル級の位置推定精度や障害物検知精度を達成した。また、車内に設置したカメラで取得した画像から機械学習モデルを用いてドライバーの顔向き推定することを可能とした(図2)。これらの結果を評価指標とし、開発した運転モデルを用いて評価することで、右左折前の車両の寄せ方や目視による確認、ショートカット、大回りなどの運転行動を教習指導員と同等の精度で評価するルールベースの評価手法を構築した(図3)。
この評価手法を自動車教習所における教習業務に適用するにあたっては、走行経路を複数区間に分割し、区間ごとに評価指標とその閾値を設定したうえで、閾値の範囲外の運転行動を異常と判定し、その結果をドライバーにフィードバックする AI 教習システムを開発した。また、異常と判定した運転行動の中で、特に危険な運転行動に対しては教習指導員が行うのと同様のブレーキ制御を自動で行うことで危険を回避する機能を実現した。
自動車運転教習所は教習指導員の高齢化や採用難による人材不足により、新規免許取得者や、高齢者講習の予約待ち(平均2~3か月)が問題となっている。2022年6月からの高齢者技能検査では年間15万人以上の検査を行うことが見込まれており、当該検査への対応も自動車学校が抱える大きな課題となっている。これらの課題に対し、自動運転の模範的な運転モデルを活用したAI教習システムを株式会社ティアフォーおよびミナミホールディングス株式会社にて製品化し、自動車教習所への適用を実現した。
自動車教習所は、道路交通法に則り車を安全に運転するために必要な運転技能の習得を行う場であり、その技能習得は自動運転技術が達成すべき目標の1つである。今回の適用によって、教習指導員の業務負荷軽減と新規免許取得者や高齢運転者の受入拡大のみならず、自動運転技術が社会実装されたことで、今後より精度の高い実データの集積が可能になり、自動運転技術の継続的発展への寄与が期待される。
付記:
本研究は、以下の事業・研究領域・研究課題の支援を受けて行われた。
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」
(研究総括:栄藤 稔(大阪大学 先導的学際研究機構 教授)
研究課題:「完全自動運転における危険と異常の予測」(JPMJCR19F3)
研究代表者:加藤真平(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
5.問い合わせ先:
<研究に関するお問い合わせ>
東京大学 大学院情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 加藤研究室
准教授 加藤 真平(かとう しんぺい)
Email:shinpei.kato[at]pf.is.s.u-tokyo.ac.jp
名古屋大学 大学院情報学研究科 知能システム学専攻 武田研究室
教授 武田 一哉(たけだ かずや)
Email:kazuya.takeda[at]nagoya-u.jp
Tel:052-789-5358
<報道に関するお問い合わせ>
東京大学 大学院情報理工学系研究科 広報室
Email:ist_pr[at]adm.i.u-tokyo.ac.jp
名古屋大学 管理部総務課 広報室
Email:nu_research[at]adm.nagoya-u.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
Email:jstkoho[at]jst.go.jp
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
株式会社ティアフォー 広報担当
Email:pr[at]tier4.jp
ミナミホールディングス株式会社 AI 教習システム事業部
Email:todoriki[at]minami-hd.co.jp
<JST 事業に関するお問い合わせ>
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICT グループ
舘澤 博子(たてさわ ひろこ)
Email:crest[at]jst.go.jp
Tel:03-3512-3526 Fax: 03-3222-2066
<AI 教習システムに関するお問い合わせ>
AI 教習所株式会社 広報担当
Email:info[at]ai-driving.school
添付資料:
LiDARセンサーデータと高精度地図を照らし合わせることで、車両位置(地図内の位置と向き)を高い精度でリアルタイムに推定することができる。
車内に設置したカメラで取得した画像から、機械学習モデルを用いてドライバーの顔向きを推定することで、右左折時などにおけるドライバーの確認行動の評価が可能になる。
車両に後付けしたLiDARやカメラなどの各種センサーを通して、運転行動を数値データとして知得する。次に自動運転ソフトウェアであるAutowareを用いて、知得した数値データから走行位置、加速度、車間距離、確認行動など十数の評価指標を抽出する。抽出した評価指標を教習所指導員の評価手法に基づいて開発した評価モデルにて定量的に評価する。
出典:
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20210514-2/pdf/20210514-2.pdf