宇宙人の侵略から地球を守る。
ハリウッド映画やSF小説では定番中の超定番。作品数がありすぎて相当頑張らないと二番煎じ呼ばわりされそうな程度にはポピュラーだ。
図1
では、これを現実に大真面目に唱える人がいたらどうだろう。
疲れているならゆっくり休めと諭すか、病院へ行くことを勧めるか、反応は様々だが、少し正気を疑ってしまったりなんかするかもしれない。
では、もう一つ。これを唱えているのがれっきとした科学者だったらどうだろう。宇宙を研究することを生業としている天文学者だったらどうだろう。少し地球の身が心配になりはしないだろうか。
スティーブン・ホーキング博士を始めとして、世界的に見れば宇宙人の存在を信じ、その襲来を警戒している科学者や天文学者は相当数いて、現実的な対処方法もいくつか考案されたりしているのだが、そのうちの一つにレーザーを使用した意外な防衛方法が提案されている。
普通レーザーで防衛、とくれば、レーザー兵器を想像してしまうが、この案は一味違う。
惑星が属している恒星の前を横切る時、その恒星の放つ光が遮られて僅かに弱く見える。これを「通過」(トランジット)と言う。この現象は、太陽系の外に地球以外に居住可能な惑星が無いかを探査する際に実際に使用されており(トランジット法)、この方法でNASAのケプラー宇宙望遠鏡は1000個余りの惑星の存在を確認している。(ちなみに、このトランジット法、比較的安価な機材でも惑星の発見が可能な為、アマチュアにも手が届くというお得な点もある)。
図2
このトランジット法を異星人も使っているのではないか、と危惧しているのがアメリカ・コロンビア大学のデビッド・キッピング教授とアレックス・ティーチェイ氏だ。ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)の探索に際し、宇宙人も私たちも同じ手法を取っている可能性は否定出来ず、地球が太陽の前を通過する際に発見される恐れがある、と警鐘を鳴らしている。
そこでキッピング教授らは、その通過の間にレーザーを照射し、光の弱まりを誤魔化せば宇宙人から地球が発見される恐れは無くなる、と考えているのだ。毎年、10時間程度、30メガワットのレーザー照射で太陽光の波長のうち可視光の弱まりを隠すことが出来るというが、これは国際宇宙ステーションの太陽電池1年分に相当し、可視光以外の波長も全て隠そうとするならば、年間250メガワットもの巨大な電力が必要となってくる。(但し、生命の存在を示す大気の状態(酸素の存在等)を隠すだけならば、160キロワットで足りるとの試算もある)。
決して安価ではない投資と技術力が必要となる提案だが、何故そこまでして地球の存在を宇宙人の目から隠そうとするのだろうか。1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャーには、地球の生命や文化を伝える為のゴールデンレコードが積まれ、地球外知的生命体へのメッセージとするなど、宇宙人との積極的なコンタクトを求めていたのではなかったのだろうか。
*ボイジャーに積まれたゴールデンレコード(右)とジャケット(左)。
宇宙人の目から地球を隠すべきだと警告を発する科学者の一人、スティーブン・ホーキング博士は、宇宙人が地球にやって来る目的が、資源の収奪や植民地化である可能性は決して捨て切れるものではなく、また、彼らが持ち込むかもしれない未知の病原体にも警戒するべきだ、としている。
かつて、1492年のコロンブスの到達以降、西欧文明の侵略によってアメリカ大陸の各文明が壊滅的打撃を被ったのと同じような事態が、今度は地球単位で起こらないとは限らない、ということだ。未知というレベルでは図ることが出来ない程かけ離れた相手であるだろう宇宙人が、必ず地球基準の善人である、という保証など確かに何処にも無いのだから。
最後に、この技術はレーザーの威力を上げれば、地球の存在をアピールするという真逆の方向にも使用できる。
地球の存在を隠すのか、知らしめるのかは科学者の中でも意見は分かれ、現在議論が交わされている最中である。宇宙人との遭遇は人類の壮大な夢の一つではあるが、ここはやはり慎重を期して進んでいきたいものだ。
参考
*http://kerokero-info.com/wp-content/uploads/2017/03/0422-1-1024×576.jpg(図1)
*Science Window
http://sciencewindow.jst.go.jp/html/sw51/sp-005(図2)
*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52215061.html
*eStory Post
http://estorypost.com/picture/pictures-on-voyager-space-craft/
「執筆者:株式会社光響 緒方」