要点
- カーボンナノチューブ膜の物性制御によりテラヘルツ帯検出器を高性能化
- 検出器は指に装着可能で、配管の亀裂検査などの非破壊検査を実現
- 対象物の形状によらず、任意の場所で簡便に検査することが可能に
概要
東京工業大学 科学技術創成研究院の河野行雄准教授、理化学研究所の鈴木大地博士(研究当時・東工大 河野研究室所属)、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の桒原有紀博士らは、カーボンナノチューブ膜を材料としたウェアラブルなテラヘルツ検査デバイスを開発した。大規模な測定系を必要とせずに、指先につけるだけで配管の亀裂検査といった非破壊検査が可能になる。テラヘルツ光の検出原理である光熱起電力効果を高めるため、カーボンナノチューブ膜の吸収率や熱電性能を最適化し、高感度検出かつ折り曲げ可能な検出器を実現した。工業部品や医薬品などの製造で、製品の信頼性を保証するための高機能な検査技術が求められている。テラヘルツ帯を活用した非破壊検査技術は測定対象内部の形状・材質の情報を計測可能なことから注目を集めており、実用化に向けた研究が精力的に行われている。従来の検査技術は測定対象の形状やサイズによる場所の制限があったが、開発技術はあらゆる形状の測定対象を任意の場所で簡便に検査できる。工場内の入り組んだ環境での品質検査や訪問医療などの移動先での即時検査といった応用が期待でき、非破壊検査業界にブレークスルーをもたらす成果である。研究成果は2018年6月6日付で米国化学会誌の1つ「ACS Applied Nano Materials」に掲載された。
研究の背景と経緯
工業用部品や医薬品などの品質を保証するため、製品への異物混入や変形・破損を検査する高機能な計測技術の開発が重要な社会的テーマになっている。テラヘルツ帯を活用した検査技術は、製品の内部に渡る形状・材質といった情報を非破壊で測定できる強力な手段として注目を集めており、実用化に向けた研究開発が盛んになっている。しかし、二次元平面的な構造からなる一般的なカメラを使用する場合、測定対象を全方位に渡って検査するには、カメラないしは測定対象を360度機械的に回転させる機構が必要不可欠である。この手法は測定系の大規模・煩雑化や測定時間の増加、測定対象の制限といった課題を抱えており、生産現場におけるインライン検査やウェアラブルセンサーへの応用を困難なものとしていた。河野准教授らは2016年にカーボンナノチューブ膜の光熱起電力効果を用いたフレキシブルなテラヘルツ帯撮像デバイスを開発し、注射器などの医療器具の全方位非破壊検査を達成した(D. Suzuki, et al., Nature Photonics 10, 809-813, 2016)。今回、先行研究において論及されずにいたカーボンナノチューブ膜の相対ゼーベック係数やテラヘルツ光照射に対する吸収率を最適化し、人の指にも装着できるウェアラブルな検査デバイスの開発に成功した。
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