火星まで3日で到達、レーザー推進

火星有人探査、火星移住計画と昨今火星が話題に上ることが増えている。アメリカは2030年代半ばまでに、ロシア、ESAは2025年頃までに火星の有人探査を実施すると計画を発表しており、オランダのNPO法人は2025年に火星移住を実現させるとして一般の希望者を公募している「マーズ・ワン」計画も始動している。

 図1

SF映画や空想の話ではなく、真剣に火星のテラフォーミングや移住計画が話し合われる時代が到来しているわけだが、(ホーキング博士らも地球外移住について度々言及している)。何故、火星なのか。
火星が太陽系の中で最も地球に近い惑星だからである。1日の時間は約24時間40分、赤道傾斜角は25度と地球とほぼ等しく四季がある、という類似性と、距離的には最も近い金星が、気圧は水深900mとイコールの90気圧、地表温度450~500℃、硫酸の雨が降り注ぐ過酷な環境だ、という事情もあるかもしれない。
火星への有人探査自体は1948年に既にアメリカで計画されてはいたが、現代に至るまで実現はされていない。最も問題となっているのは、地球・火星間の距離である。月の有人探査が可能となったのは、3~4日で到達出来る距離にあるということも大きいのだ。現在の技術で火星に有人宇宙船を着陸させようとすれば、片道で6~7ヵ月は覚悟しなくてはならない。到着してトンボ帰りする筈もなく、探索期間は半年~1年、その後再び7~8ヵ月かけて地球に帰還とすれば、2年~2年半程度の宇宙生活となる。宇宙滞在中に、宇宙飛行士たちの身体には骨密度の低下や視覚障害脳圧症候群等の症状が現れることは既に知られており、それと共に、長期間任務の過度なストレスによる乗組員同士のトラブルが起こる可能性もある。また、大気の無い宇宙空間で大量の放射線を長期間浴び続けることへの懸念も示されている。

 図2

この距離の問題に関し、NASAが2016年に有効な解決策を発表している。それがレーザー推進システムである。このシステムを使えば、3日で火星に到達することが可能だという。
光の粒子としての性質を利用し、大出力レーザーを宇宙船に取りつけたソーラーセイルに照射することで推進力を得るもので、計算上で光速の30%程度の加速を得ることが可能であるとされている。このスピードは、総重量100kgの無人宇宙船なら前述通り3日で、有人宇宙船ならば1ヶ月前後で火星に到達するのに十分な物だ。(ちなみに、このシステムはユーリ・ルミナー氏やホーキング博士達が提案している恒星間飛行、ブレイクスルースターショット計画にも採用されている。)

 図3

レーザー推進による宇宙航行のメリットは大幅な時間短縮だけではない。現在運用されているロケットは、打ち上げ時の動力を得る為に大量の燃料を積載しているが、レーザー推進は外部から動力を得るシステムである為、その燃料を積み込む必要が無くなり、大幅な軽量化とコストダウンを図ることが可能となる。仮に、サンプルを持ち帰る計画や有人航行の場合でも、復路のみの燃料を積み込むだけで良いのだ。H2Aの打ち上げ費用が100億円、H2Bが140億円、欧州宇宙機関(ESA)アリアンVが200億円とされる高額な打ち上げ費用を大きく削減できるかもしれない。
問題があるとすれば、目的地にレーザー照射設備が無い場合の減速をどう行うかである。これに対しては、物理学者でありSF作家でもあるロバート・F・フォワード氏が興味深い提案をしている。氏はソーラーセイル等の宇宙機推進方法のプロジェクトに従事しており、「宇宙船に設置してあるソーラーセイルを外周部と内周部に分割し、目的地到達時に外周部を切り離し、外周部セイルで反射したレーザーを逆方向から内周部セイルに照射することで減速できる」とのことだ。

各国が掲げる火星への有人航行・移住計画の目標までおよそ10年。火星のテラフォーミングを示唆する提案なども出てきている。荒唐無稽、SF映画、と聞き流す時代は終わり、少しずつ実現に向かって技術は進歩し始めている。
火星の平均気温は-43℃(最高気温20℃)、地球上でも無い気温というわけではない。1日は大体24時間で四季もあり、大気の95%は二酸化炭素で植物の栽培は可能なのではないかという説もある。酸素は0.13%しかなく、ドライアイスの雪が降るという事実もあるが、いつか本当に火星移住や旅行が日常になる日は、そう遠いことではないのかもしれない。

参考
*宇宙の星雲・惑星など、ワクワクする楽しみ方
http://utyuu-tanosimu.net/entry266.html

*TOCANA
http://tocana.jp/2016/02/post_8993_entry.html

*http://uptrendnews.com/wp-content/uploads/2013/09/mars.jpg(図1)

*http://www.gibe-on.info/wp-content/uploads/2016/09/%E7%81%AB%E6%98%9F.jpg(図2)

*http://wired.jp/wp-content/uploads/2016/02/Sail.png(図3)

「執筆者:株式会社光響 緒方」