ブラックホールの存在が初めて理論化されたのは意外に古く、ジョン・ミッチェルによって1783年に提唱されている。現代的な理論はカール・カール・シュヴァルツシルトがアインシュタイン方程式を特殊解として導いた1915年に始まったとされており、実際の発見に至ったのは1971年。「はくちょう座X-1」の連星として観測されたのが初とされている。
その特性として、極端に強い重力により周囲の何もかもを吸い込んでしまう、光さえも脱出できない、パラレルワールドに繋がっている、等々様々な説が飛び交うブラックホールだが、その正確な姿は未だ判然とはしていない。そのブラックホールのような現象が、地球上で観測されたという。
図1
ドイツ・ハンブルグ大学などの合同研究プロジェクトチームは最大出力のX線自由電子レーザーを一点に集中させ、ヨードメタン分子に照射する実験を行った。
X自由電子レーザーとは可干渉性、大きなピーク輝度、短いパルス幅を持つレーザーで、新薬開発の鍵を握るとされる膜たんぱく質の解析等に力を発揮している。(日本国内では兵庫県播磨科学公園都市内、2011年に実験施設「SACLA」が完成している。これはアメリカに続き世界で2番目の設置となっている。)
図2
非常に強力なレーザーであり、研究者が「地球に注ぐ全太陽光を親指の爪に集束して得られる強度よりも約100倍の強い」と発言するほどの威力があるが、そのレーザーを最大強度で分子に収束させた。
結果、レーザーは分子の最大原子から数個を残して全ての電子を引きはがし、その結果出来た空洞は分子の残りからさらに電子を引き込み始めた。まるで螺旋状に物質を吸い込んでいくブラックホールのような現象を引き起こしたのだ。30フェムト秒内で分子は50以上の電子を消失し、破裂している。
今回の実験結果について、アメリカ・カンザス州立大ダニエル・ロールズ教授は「強いX線が分子構造にどのようなダメージを与えるかについての理解を深めることができる」とし、強力なX線レーザーが分子レベルでの死滅をもたらす可能性について示唆している。
この実験で出現したのはあくまでもブラックホールのような現象であって、巨大な重力を有する実際のブラックホールを実験室に作り出したわけでは無い。しかし、近年の高出力レーザー技術の目覚ましい進歩により、ビッグバン理論に関係する真空の「量子ゆらぎ」を観測できる可能性も出てきており、そうなれば、ブラックホールの「事象の地平面」を地球上で再現できる日もいずれはやってくるのかもしれない。
参考
*Laser Focus World
http://ex-press.jp/lfwj/lfwj-news/lfwj-science-research/18757/
*exciteニュース
http://www.excite.co.jp/News/odd/Tocana_201706_post_13513.html
*http://www.gibe-on.info/wp-content/uploads/2016/07/ブラックホールの中-1.jpg(図1)
*http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2011/111005_fig/fig1.png(図2)
「執筆者:株式会社光響 緒方」