船舶による海上輸送では、大量の貨物を安価にしかも長距離輸送できる、という点だけを見ても、島国である日本にとって、非常に重要な輸送手段だ。勿論、大陸国家も大陸間輸送は海上に頼る比率が高い。また、港湾施設は空港よりも、耐用年数や維持管理費等をトータルするとその建設費用は安価だ。その点でも大きなメリットがあると言えるだろう。
もっとも、積み下ろしの重労働や人件費、大規模設備を必要とする他、輸送速度が陸・空の輸送よりも遅いことなどはデメリットかもしれないが、それを差し引いても重要であることに変わりない。
そして海上航行で必要不可欠なのが海図だ。
日本での海図の刊行は主に海上保安庁が行っているが、世界各国どの国でも使用できるように世界測地系という共通の測地系で作成されている。
その作成に重要となっているのが経緯度の基準点(本土基準点)の決定だ。それを決定する為に最も精密で信頼性の高い観測方法の一つが、人工衛星レーザー測距観測(SLR=Satellite Laser Ranging)で、特に1,000km以上離れた地点間の位置関係を高精度で測定可能な為、日本にとっては特に適した方法と言えるだろう。方法は、極々簡単に言えば、巨大な三角測量だ。
まず人工衛星に、照射された光を正確に反射する特殊な鏡「コーナーキューブ」を取り付ける。この衛星に向かって強力なレーザーを照射し、反射した光が戻ってくる時間を計測することで距離を算出する。(気象条件、気温、気圧、湿度等による誤差は補正される。)
人工衛星が地上に設置された観測局から観測出来るポイントを通過する時に、各地の観測局で人工衛星までの距離を計測する。通常、数分から1時間ほどの間に数千から数万回の計測が行われるという。この取得された計測データから、人工衛星の軌道を算出することができる。
図1の3つの軌道を複数の計測結果を合わせることで、より正確な軌道を決定する。世界各地にある観測局のデータを統合することで、現在のSLRの精度は1mm以下という精密さでの決定が可能になっている。
要は、レーザーを使った三角点なわけだが、当然、各国各地の観測局との協力が重要であることは言うまでもない。ILRS(International Laser Ranging Service)が中心となって国際共同観測が行われており、日本では和歌山県那智勝浦の下里水路観測所がその役割を担っている。
こうして得られたデータが世界測地系に結びつけられ、その海図を利用する船舶の航行の安全を保つことに大いに力を発揮している。他にも、レーザー測距観測や、GPS観測データで地点間の精密距離を算出し、常に監視計測されている地殻変動監視観測データと合わせて、プレート運動の研究にも利用されている。
最後に、世界中でどれだけの船舶が常時航行しているのかが分かるwebサービスが存在する。勿論、全ての船舶が表示されるわけではなく、海賊等の警戒海域で操業する漁船や、作戦行動中の軍艦等は除外されているが、壮観なので、興味のある方は、http://www.marinetraffic.com (ライブ船舶マップ)
をチラリと覗いて見られると良いかと思う。海図の重要性と必要性を痛感する良い機会になるのではないだろうか。
第五管区海上保安本部 下里水路観測所
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/simosato/j/index.htm
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/simosato/img/doc/slr_01.gif (図1)
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/simosato/img/doc/slr_02.gif (図2)
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/simosato/img/doc/station.gif
*第五管区海上保安本部
http://www.kaiho.mlit.go.jp/05kanku/contents/introduction/kaiho06.html
執筆者: 株式会社光響 緒方