完全位相制御テラヘルツ近接場による超高速ナノ空間電子操作技術を開拓

本研究のポイント

  • (世界初)トンネル接合部に任意の単一サイクルテラヘルツ近接場を創成
  • (世界初)1 nmかつフェムト秒(10-15s)の精度で自在に電子操作する技術を構築
  • 強光子場物理、次世代超高速エレクトロニクスの発展に貢献

【研究概要】
横浜国立大学の吉岡克将(博士後期課程3年・日本学術振興会特別研究員)、片山郁文准教授、嵐田雄介助教、伴篤彦(博士前期課程2年)、武田淳教授、浜松ホトニクス株式会社中央研究所の河田陽一氏、高橋宏典氏、東京大学理学系研究科の小西邦昭助教のグループは、次世代エレクトロニクスの発展に不可欠な「高速化」と「微細化」の問題に新たな道筋をつける、超高速ナノ空間電子操作技術の開拓に成功しました。グループは、テラヘルツ走査型トンネル顕微鏡にテラヘルツ位相シフタを組み込むことにより、探針・試料間のトンネル接合部に任意の単一サイクルテラヘルツ近接場を創り出すことに世界ではじめて成功しました。更に、1nmのナノ空間かつフェムト秒(10-15s)の精度で、探針・試料間の電子を自在に操作できることを実証しました。この成果は、現代エレクトロニクスの限界を打破する超高速光ナノエレクトロニクス開発に新たな処方箋を提供するものです。また、探針・試料間の100,000倍に達する電場増強度を利用することにより、“強光子場物理”の学問分野に新しい扉を開くものです。本研究成果は、2018年7月20日に著名な米国化学会学術誌 Nano Letters誌のon-line版に掲載されました。尚、本研究は、一部、科学研究費補助金(課題番号 16H04001,16H06010,18H04288)、日本学術振興会特別研究員奨励費(17J05234)及び総務省のSCOPE(#145003103)の補助を受け行われました。

【研究背景】
現代の情報技術は電子制御の「高速化」と「微細化」の推進により発展してきました。しかしながら、従来技術の延長には限界があり、高度情報化社会を支える電子制御技術の発展に陰りが見えつつあります。近年、電子制御を飛躍的に高速化させる次世代の手法として、超短パルスレーザーや単一サイクルのテラヘルツ(THz)波のキャリア・エンベロープ位相(以降、CEP)−光・THz波中の振動電場の位相−を利用することが考案されました(図1参照)。これにより、光・THz電場の振動周期よりもさらに短い究極の時間スケールで電子を操ることができるため、現代エレクトロニクスの限界を打破する超高速光エレクトロニクスの開発が可能になると考えられています。これまでに研究チームは、この超高速電子制御を光の回折限界を超えた超微細領域で行うことを目指し、金属ナノ構造体とTHz波の相互作用を利用した電子の伝導性の制御、走査型トンネル顕微鏡(STM)と高強度THz波を組み合わせたTHz-STMによるトンネル電子の超高速制御とナノ空間イメージングに成功しました。特に、THz-STMを利用すると、フェムト秒かつナノ〜原子スケールで固体試料表面や単分子の電子状態を追跡することができるため、世界中で精力的に研究が行われはじめています。しかしながら、THz-STMの探針・試料からなるトンネル接合部とTHz波の相互作用は未解明であったため、トンネル電子を駆動する THz波の近接場の形状は、別途、電気光学的な計測をして得られた波形を仮定しており、その仮定の妥当性は一切検証されてきませんでした。また、探針・試料間に任意の近接場波形を創り出すことはできておらず、電子を超高速かつ微細空間で自在に操作する“処方箋”の構築はこれまで達成されていません。

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