ネアンデルタール人の生活解明。乳歯をレーザーでスライスして詳細調査。

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猿人→原人→旧人→新人→現生人類。猿から進化した私たち人間は、順を追って進化の道を辿ってきた。今のところ発見されている最古の人類の祖先は、2001年にフランスのポワティエ大学のM.ブルネによってアフリカ・チャドの北部で発見されたサヘラントロプス・チャデンシスとされている。


左:図1 サヘラントロプス・チャデンシス頭蓋骨
右:図2 同復元

彼らは脊髄が通る頭骨の大後頭孔が下方に付いていて、直立して歩いていた可能性が高い。この聞きなれない名前の猿人が、チンパンジーと人を分けた最も古い先祖だ。600~700万年前まで遡り、ほぼ完全な頭骨、下顎片、歯が発見されている。しかし、足跡を含む当時の生活の痕跡は一切発見されておらず、未だ謎に包まれているとは言え分からないことの方が多い、というのはこのサヘラントロプス・チャデンシスだけというわけではない。今生きている私たち以外の人類のことは殆ど分かっていない、というのが現状だ。もっと新しい時代の先祖であるネアンデルタール人のことですらそう多くのことは分かっていないのだ。が、最近、その状況に変化が訪れている。そのきっかけを作ったのは、「歯」だ。

2018年10月31日付の科学雑誌「Science Advances」で発表された論文によると、ネアンデルタール人の子供の歯を調査することで、彼らが激しい環境の変化に晒され、厳しい冬や鉛による中毒などの危機に直面していたことが明らかになったという。また、歯の持ち主である子供が春生まれであること、2歳半頃まで母乳で育てられていたこと、秋に乳離れしていたということまでが明らかになったのだ。

どうしてこんなことが分かったのか。論文の著者であるオーストラリア・グリフィス大学の自然人類学者であるスミス氏によると、歯は一定のパターンに従って成長する。木の年輪と同じように。しかも、年輪のように一年毎ではなく毎日積み重ねられその時々の状況を記録していくのだという。日ごとに成長する子供の歯を詳細に調べれば、その成長の過程が判明するというわけだ。
フランス南部で生活していたとみられるネアンデルタール人の子供の歯を、レーザーで極めて薄く削り取り高性能の分析装置にかけて、積み重なった層ごとの年齢を特定。分析された臼歯は生まれる前に形成され始め、3歳ごろに完成したものだったがすり減った様子が無く、歯の持ち主は大人にはなれなかったのではないかと推測されている。
また、もう一本の臼歯は3歳頃から形成され始め6歳頃まで成長し続けたことが判明した。以降は成長が止まり層が積み重なることは無いが、摩耗や傷の痕跡からも情報を得ることが可能だ。


図4 ネアンデルタール人復元

研究チームは更に、歯に含まれる酸素同位体・元素比率を調査した。酸素同位体は気候変動を知る重要な手掛かりだ。飲食物に含まれていて温度によってその比率が変化するので歯に記録として残されるのだ。その結果、歯の持ち主は多くの哺乳類がそうであるように春に生まれているが、冬には歯の構造に乱れが見られ、ストレスに晒されていたことが明らかになった。寒さによる風邪や栄養不足、更には驚くべきことに鉛による中毒の痕跡も発見されている。どういう状況で鉛に触れたのかは分からないが、生活の場としていたとみられる地域には鉛を算出する場所があり、寒さをしのぐ為に避難した洞窟で手に入れた水や食料が汚染されていた可能性や、鉛を含んだ物を燃やしてその煙を吸い込んだ可能性などが考えられている。
また、先に述べたように、2歳半まで母乳で育てられたことも判明しているが、今回とは別のベルギーで発見されたネアンデルタール人の乳歯からは、1歳数カ月しか母乳で育てられていないことが判明している。こちらは、徐々にではなく突然授乳が断ち切られている痕跡が残されており、何らかの理由で母親から引き離されてしまったか、病気の可能性が指摘されているという。
調査された数が少ない為、この2歳半という年齢がネアンデルタール人の授乳期間の平均だったのかどうかは未だはっきりとはしないが、現在の類人猿の授乳期間が5年前後あることを考えると、相当に現生人類に近い育児ということになる。また、授乳期間の特定ができたということは画期的な事だ。彼らがどの程度現生人類に近い生活を送っていたのかを知る大きな手掛かりになるからだ。現在分かっている限りでも、ネアンデルタール人は、火を使い、道具を作り、植物や動物を利用することを知っていて、アクセサリーでオシャレを楽しんだり絵を描いたりしていたし、亡くなった人を埋葬することもしていた。相当に現生人類に近い生活形態だったのではないだろうか。
これに加えて今回の研究結果により、子育てや冬の乗り越え方といった更に詳細な情報を得ることができた。調査数が増えるに従って得られる情報はより確かになり、それに伴って私たちが遠い先祖の生活を深く知ることができる日も着実に近づいていると言えるだろう。

最後に。
今のところ最古の人類とされているサヘラントロプス・チャデンシスだが、これは確定というわけではないようで、ゴリラの雌の祖先ではないか、という説もあることを付け加えておく。それにしても、最古の人類はアウストラロピテクスだと思っていたのだが、より古い人類が発見されていたとは。考古学の発展ぶりには驚くばかりだ。人類とサルを分ける明確な区切りが発見される日もそう遠くは無いのかもしれない。


*Wintertime stress, nursing, and lead exposure in Neanderthal children

関連

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参考
*NATIONAL GEOGRAPHIC
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/110200476/
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/110200476/ph_thumb.jpg?__scale=w:500,h:332&_sh=0760710d80 (図3)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fc/Sahelanthropus_tchadensis_-_TM_266-01-060-1.jpg/250px-Sahelanthropus_tchadensis_-_TM_266-01-060-1.jpg (図1)
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/rekisi2100/20171103/20171103063701.png (図2)

https://img01.tamaliver.jp/usr/lovely/IMG_5249.jpg (図4)

http://livedoor.blogimg.jp/hsnemu/imgs/c/9/c90c0b7f.png (Top画像)

執筆者:株式会社光響  緒方