乳歯に蓄積された化学物質をレーザーで分析すると、病気のリスクがわかる技術が開発される

子供が行きたくない病院ランキング不動の1位といえば、間違いなく『歯医者』だろう。怪我や病気の痛みとは一線を画する痛さ、歯を削る時の甲高い機械の音、その他諸々何もかもが嫌だという子供は非常に多い。ついでに、大人の歯医者嫌い率も2013年度調査で61%となかなかの割合を占め、歯医者好きの7%を大きく引き離している。つまるところ、子供が大人になっても歯医者嫌いは変わらないということだ。

しかし、歯は大事だ。無くなったり虫歯になったりするという理由だけでなく、体全体の健康に影響を及ぼすことすらある重要なパーツでもある。この歯と健康に関して面白い研究がされている。

アメリカ・マウントサイナイ医科大学のマニッシュ・アローラ氏は、人間の抜けた歯を調べることで、病気の早期発見に役立てることができるという研究結果を発表した。

アローラ氏によると、人間の歯は生物学的な記録媒体で、どのような化学物質に晒されてきたのかがわかるという。また、歯に蓄積された化学物質を分析することで、自閉症、ADHD、筋萎縮性側索硬化症等の兆候を発見し、早期に治療を始めることも可能になるという。殊に注目しているのが、乳歯だ。ある程度の年齢になれば抜けて永久歯に生え変わる乳歯に髪の毛の1/10程のレーザーを使い、蓄積された病気のサインをマッピングすることで、どんな病気にどの程度のリスクが潜んでいるのかを解明できるのだという。アローラ氏は「子供の乳歯に蓄積された鉛の量とIQの高さが反比例する」という調査結果から発想を得て、物理学科と協力してレーザー光を利用した分析方法で乳歯から化学物質を検出する方法を開発した。また、そこから発展して、蓄積された化学物質が人間に与える影響について研究し、自閉症の子供が胎内にいる間、特定の化学物質を処理出来ず蓄積してしまうことを発見。妊娠3週目から発生するこの機能不全は自閉症の早期発見の手段として非常に有効だという。早期に発見すれば早期に治療・療育を始めることが可能だ。乳歯は生えてくるまで、或いは抜けるまで分析することができないが、他のサンプルを尿や血液から得ることができれば、同じように早期発見・早期治療の手段となると考えられている。


*Teeth and Austism Scientific American

乳歯は、どうせ抜けてしまうんだから、という幼い時だけの歯だが、その分析によって得られるものはその小ささからすると素晴らしく大きいようだ。アローラ氏の研究が一般に浸透すれば、子供の歯が抜けるのを待って分析を依頼する親御さんも増えるかもしれない。つまり、屋根に放り投げられたり床下に放り投げられたりしていた乳歯は、もっと大事に保管される、子供の将来の健康を測る重要なバロメーターになるのかもしれない。

最後に、歯が生え変わる生き物は多い。サメは歯が抜けても無限に生え変わり種類によっては10日ほどで1列全てが生えそろうとか。ゾウはその人生ならぬゾウ生のうちに5、6回の生え変わりあるのだが、人間やサメのように下から生えてくるのではなく奥にある歯から順番に抜けていく。つまり、歯が無い期間が無い、という面白い生え変わり方をする動物だ。人間はゾウやサメのように何度も歯が生え変わるというようなことはできない。今生えている歯を大事にすると共に、抜けた乳歯も大事にとっておくのがふつうになる日が、遠からずやって来るかもしれない。

参考
*GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20181005-teeth-marker-of-disease/

*SCIENTIFIC AMERICAN
https://www.scientificamerican.com/custom-media/mount-sinai/in-teeth-markers-of-disease/

*8020推進財団
https://www.8020zaidan.or.jp/knowlegde/animal.html

【歯のイラスト】歯ブラシを持った可愛い歯のキャラクター

執筆者:株式会社光響  緒方