砂粒サイズのハエの脳を拡大画像化。レーザー光シートで大幅な時間短縮に成功。


マウスの脳ニューロン

脳の大きさは身体の大きさで決まっているわけではない。例えば、水族館で人気のジンベエザメの脳はあの巨体に反して驚きのピーナッツサイズだ。とは言え、自分の体より大きい脳味噌を持つことはどんな生き物にもできないわけで、当然それ相応というか体のサイズ以下の大きさの脳を持つことになる。
サイズの小さな昆虫ならば、その体に見合った脳を持っているわけだが、誰もがお馴染みで迷惑しつつ見慣れた昆虫の一つであるハエも、その体に適した脳を持っている。その小さな体に見合った小さな脳は砂粒程の大きさしかないそうだ。
体長3mm程しかないショウジョウバエは研究に使われることの多い昆虫のうちの一つだが、彼らの脳もまた例外なく非常に小さい。しかし、ショウジョウバエの脳は、記憶、運動、視覚等の情報を区別して伝える神経回路を持ち、匂い、光、味、重力、左右から聞こえる音を伝達する仕組みが、人類の脳と非常によく似ているということが分かっている。その為、研究対象として非常に重要な昆虫なのだが、その脳の画像化には数週間という時間を費やさなくてはならない、という難点があった。
その数週間を数日間に大幅短縮する技術が開発され、注目を集めている。

米・ハワード・ヒューズ医学研究所ジャネリア・リサーチキャンパスの研究者によって開発されたのは、膨張顕微鏡法と格子光シート顕微鏡法という2つの顕微鏡法の合わせ技だ。
膨張顕微鏡法は、読んで字の如く対象を物理的に膨張させる方法だ。注目する場所/研究対象としたい場所に蛍光タンパク質で印をつけて高分化ゲルと結合。生物組織を酵素が消化し、そこに水を加えることでポリマーを拡大させると、蛍光タンパク質で印をつけた場所は、元の形状を保ったまま膨張して拡大される、という仕組みだ。今回のショウジョウバエの脳は何と4倍もの大きさになったそうだ。

図1:膨張顕微鏡法で拡大されたハエの脳画像。

これで研究しやすくなる、というわけにはいかないのが現実の厳しいところだ。この状態の脳を画像化すると、「約20兆ボクセル/3Dピクセル」が必要だ。通常の電子顕微鏡を使うと数週間かかることになる。正直、時間がもったいないし、そんなに待ちたくないというのが研究者たちの偽らざる本音だろう。
そこで使われた2つ目の方法が格子光シート顕微鏡法だ。対象の側面から薄いシート状に整形した励起光を照射してクリアな画像を取得する方法で、大幅な時間短縮とノイズの消去を可能にしてくれた。


図2

結果として、数十㎚という大きさでの観察に成功するという驚異の結果を叩き出すことになった。
ハエに引き続きネズミの脳の一部を同じ方法で画像化することに成功している。ただ、人間の脳を同様に画像化することは現段階では不可能ということだが、今後の研究によって可能になるのではないかと期待してしまうのは当然と言えば当然ではないだろうか。まだまだ不明な部分が多い脳の機能が白日の下に晒される日がくるのかもしれない。

最後に、たかがハエ、されどハエという事実を一つ。ショウジョウバエと同じくハエ目に属するクロバエ。彼らの視覚情報処理能力は人のそれよりも遥かに高性能だ。人の独立イメージ処理能力は25/秒。これに対してクロバエは100/秒だ。何と人の4倍もの処理能力をあの小さな体と小さな脳で有していることになる。彼らにとって人が振り下ろすハエ叩きなどスロー映像の如しというわけだ。なかなか退治できないハエにイライラする時はこの事実を思い出して、少しの冷静さと諦めと、スプレー缶を取りに行く心の余裕を取り戻して頂きたい。

参考
*GIZMODO
https://www.gizmodo.jp/2019/01/real-life-expanding-brain-technique.html
https://assets.media-platform.com/gizmodo/dist/images/2019/01/22/190122FlyBrain2.jpg (図1)
https://assets.media-platform.com/gizmodo/dist/images/2019/01/22/190122FlyBrain-w1280.jpg (Top画像)

*カラパイア
http://karapaia.com/archives/51383950.html

*サイエンスポータル
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2017/09/20170914_02.html

*国立研究開発法人 理化学研究所
http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20141029_1/
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/topics/2014/20141029_1/fig1.jpg (図2)

*livedoor’news
http://news.livedoor.com/article/detail/4285826/

執筆者:株式会社光響  緒方