(レーザー関連)光で「生きたまま」微生物を高密度濃縮できるハニカム基板を開発

~有用微生物の濃縮によるバイオマス利用技術の革新に期待~

大阪府立大学(大阪府堺市、学長:辰巳砂昌弘)LAC-SYS 研究所(副所長:床波志保、所長:飯田琢也、以下「LAC-SYS 研究所」)のチームは科学技術振興機構(埼玉県川口市、理事長:濵口 道成、以下「JST」)の未来社会創造事業において、レーザーを照射しているにもかかわらず生体サンプルを低ダメージ(生存率80~90%)かつ培養フリーで高密度に濃縮できる「ハニカム型光濃縮基板」の開発に成功しました。細菌を生存状態で基板上に迅速に高密度集積化する技術は、目的とする細菌を培養で増やすことが困難な場合に微量の代謝物の評価や、有用細菌の代謝機構を用いた微生物テクノロジーの発展において切望されています。近年、有用細菌の代謝機構を利用した応用例は有機物の分解による汚水処理やバイオエタノールの生産、電気的エネルギーの取得などバイオマス関連の極めて幅広い領域に渡っています。本研究では、自然界で最も稠密な六方最密構造を示す「ハチの巣」から着想を得て、ミクロンオーダーの細菌に適合した細孔を有するハニカム高分子膜に光発熱特性を付与した基板を開発し、多数の細菌を「生きたまま」高密度に光濃縮することで基板上の細菌総体としての代謝機能の増大とその高効率利用の実証に世界に先駆けて成功しました。この成果はバイオマス利用技術の革新につながるものです。

■本研究のポイント■
・自己組織化で形成したハニカム状の光熱フィルムにわずか20秒間レーザー(出力80 mW 以下)を照射するだけで、発生した対流を使用して80〜90%の高い生存率で細菌の高密度集積(106〜107 cells/cm2)ができることを実証。
 
・水滴を鋳型としてポリマー膜中にハニカム状の細孔を自己組織的に形成し、その表面に金属ナノ薄膜を形成して高効率なハニカム型光濃縮基板を開発。
 
・対象とする細菌の例として電流発生菌を光学的に濃縮・集積でき、レーザー照射の回数を増やすだけで、
電流密度を1~2桁増大。

1.研究の背景
細菌を生存状態で基板上に高密度集積化することは、目的とする細菌の代謝機構の基礎的評価に加え、有用細菌の応用や機能の最大化の観点から非常に重要です。近年、有用細菌の代謝機構を利用した応用の範囲は汚水処理やバイオエタノールなど有用な有機化合物の精製、電気的エネルギーの取得など多岐に渡っています。一例として、原始的な細菌であるジオバクタ-属やシュワネラ属などの電流発生菌は菌体内で起こる酸化還元反応に由来する電子を効率良く菌体外に排出することが知られており、微生物燃料電池(MFC)への応用が期待されています。このような電子移動機構を応用して、電流発生菌からの電子取得の高効率化に関する取組みが数多く行われています。たとえば、接触面積を増やすためにポーラスカーボンやグラフェンナノリボンなど表面積の大きな電極を用いた研究が行われてきましたが、細菌の高密度化には培養を用いるため数日以上の長時間が必要でした。

これら細菌のサイズは数百nm~数μm 程度ですが、1μm~10μm程度の大きさの細孔を密に配列した基板を準備できれば、接触面積を最大化でき、外場で遠隔的に多数の細菌を生きたまま基板上に濃縮・トラップ(捕捉)することで機能を最大化できるはずと考えました。このような観点から、細菌捕捉用基板として自然界で最も稠密な六方最密構造を示すハニカム構造に注目しました。たとえば、マクロなハニカム構造は、少ない材料で多くの蜜を収容できる蜂の巣や、表面積を増やし多くの光を感知する昆虫の複眼、様々な方向からの応力を分散し体内を守る亀の甲羅など、単位面積当たりの容積や強度が必要な器官で用いられており、ハニカム構造を活用した生体模倣技術の開発も試みられています。一方で、外場による細菌捕捉技術は光ピンセットのように光電磁場との相互作用を用いる方法では少数の細胞しか捕捉できず、光を金属ナノ薄膜に照射した場合に生じる光発熱効果による対流を利用した光発熱集合では大半の細菌が死滅してしまうという課題がありました。我々は、このようなハニカム構造の優れた特性や外場による細菌捕捉技術から着想を得て、ミクロンオーダーの細菌に適合したサイズの細孔を有するハニカム高分子膜を基板上に作製し、光発熱効果における熱伝導特性をデザインすることで物理的手段により低ダメージで「生きたまま」多数の細菌をより迅速に高密度捕捉するための原理解明を試みました(図1)。

2.研究方法

水滴を鋳型としてポリマー膜中にハニカム状の細孔を自己組織的に形成し、その表面に金属ナノ薄膜(膜厚50 nm)を形成することで高効率な光発熱基板を開発しました。このハニカム基板の隔壁部分に赤外レーザー(波長1064 nm)照射をすることで生じた「光誘起対流」により、鞭毛を持ち走化性のある緑膿菌と走化性の無い黄色ブドウ球菌を集積化し、生存率を評価しました。また、電流発生菌も光集積の対象としてレーザー照射点数を変えて集積し、その後にハニカム基板に電圧印加の下で発生する電流密度の測定を行うことで機能評価しました。同じ出力のレーザーを照射した場合、従来の光発熱集合法で用いていた平坦な金ナノ薄膜をコートした基板よりもハニカム基板の方では温度の上昇が倍増することをサーモグラフィーによる測定で見出しました(図2)。また、電磁応答理論と熱流体力学理論を融合して対流を解析し、レーザー照射点に向かうハニカム基板表面の水平対流と細孔内の渦状の対流が発生することを示すことで、生きて動く細菌でも高密度に捕捉できる実験結果を検証しました(図1B 右)。

3.研究成果

ここでは、本研究の主な成果として、ハニカム光濃縮基板を用いてレーザー照射による細菌の捕捉を行った結果について説明します。対象とする細菌の例として、グラム陰性菌であり桿菌(棒状の細菌)である緑膿菌と、グラム陽性菌であり球菌である黄色ブドウ球菌(球状の細菌)を用いました。図1Cの上段はハニカム高分子膜の隔壁に 40 mWのレーザー出力で光発熱集合を行った場合の生細菌(緑色)と外膜損傷を受けた細菌(赤色)の蛍光イメージです。100 μm に及ぶ広範囲でハニカム高分子膜に対し細菌が密に集積され、死菌(赤色)がほとんどいないことも分かり、レーザー照射後に細菌を集積した基板を培養液に浸漬して培養したところ細菌が増殖することも確認しています。一方、比較実験として、従来法で用いてできた平坦な金属ナノ薄膜(平坦基板)にレーザー照射した場合には70 mW以下のレーザーでは気泡も発生せず、129 mWと高出力のレーザーを照射した場合には細菌はレーザー照射点付近に集積はできますが、集積範囲も狭く生存率も約16%と大半の細菌が死滅していることが分かりました。さらに、図3では各細菌において10 mW~70 mWの範囲でレーザーパワー変化させ、捕捉した細菌の蛍光染色像から見積もった捕捉密度と生存率の関係を示していますが、緑膿菌、黄色ブドウ球菌いずれの場合も特定のレーザーパワーの範囲で80~90%の高生存率を保ちながら各ハニカム細孔に高密度に捕捉されていることも分かりました。

高密度トラップした細菌の機能評価を行うために電流発生菌の一種であるシュワネラ菌を対象とした実験も行いました。この菌を光集積したハニカム基板を負極とし、Pt基板を正極、参照極にAg/AgClを用いた三極系においてバイアス電圧を印加しながら電流計測をした結果が図4です。シュワネラ菌は有機物を分解して電子放出を行うことが知られており、有機物として乳酸ナトリウムを添加して電子抽出をし易い環境下(嫌気性条件下)での測定を行いました。各点20秒ずつ逐次的にレーザー照射を行ったところ、照射点の数を25点、50点、100点と増やすと、電流密度が照射点数に伴って1~2ケタの増大を示すことが分かりました。ここでは細胞分裂が起こらない程度の短時間で電流計測を行っており、この電流密度の増大はレーザー照射により高密度集積されたシュワネラ菌によるものと考えられます。これらの結果は細菌が生きたまま(機能保持したまま)トラップできていることを強く支持する結果であり、細菌の機能を維持しながら高機能な微生物デバイスの開発にハニカム型光濃縮基板を利用できることを示唆する極めて重要な結果です。

なお、本研究は床波志保副所長と飯田琢也所長によるもので、その指導の下、栗田慎也氏(平成29年度博士前期課程修了)、吉川諒氏(平成30年度博士前期課程修了)、櫻井健司氏(博士前期課程1年)、末廣泰地氏(博士前期課程2年)、山本靖之氏(平成30年度博士後期課程修了)は細菌の光濃縮に関する実験を遂行しました。 また、床波副所長、栗田氏、吉川氏、櫻井氏は、Olaf Karthaus教授(千歳科学技術大学)の技術指導の下、ハニカム基板を作製し、田村守特認助教と飯田所長は光誘起対流の理論計算で実験結果の解析に貢献しました。

4.今後への期待
我々が明らかにした成果は光吸収性材料を表面コートしたハニカム基板が細菌を高生存率で大面積・高密度に捕捉するための重要な要素技術であることを示すものです。ここでは電流発生菌を一例として示し、逐次的に多点照射を行うことで電流発生効率の向上を確認しましたが、同時に多点照射ができる光学系が構築できれば、さらに短時間での機能評価に利用できる可能性があります。たとえば、本論文の成果を利用して有用細菌を高密度に光濃縮することで、有機物の分解による下水処理、バイオエタノールの生産、電気エネルギーの取得、腸内環境を模倣した微生物デバイスによる腸内細菌叢の機序解明や、細菌の代謝メカニズムの向上による高効率な微生物デバイスの開発が期待されます。また、食中毒菌などの悪性細菌を対象とした場合には、迅速・高感度・簡便な飲食物の検査技術や、悪性細菌から分泌される毒素の評価、ウイルス検出などにも利用できる可能性があり、様々な生体ナノ物質(DNA、タンパク質など)にダメージを与えない光濃縮技術などへの展開も期待できます。

5.研究助成資金等
本研究は主に JST未来社会創造事業 探索加速型 「共通基盤」領域の課題「低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発(研究開発代表者:飯田琢也、共同研究者:床波志保、中瀬生彦)」(JPMJMI18GA) の下で実施され、日本学術振興会 科研費基盤研究(B)(JP18H03522)、科研費基盤研究(A)(JP17H00856)、新学術領域(提案型)「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」(領域代表:石原 一)(JP16H06507)、大阪府立大学キープロジェクト、その他の支援を受けて完成しました。

出典:http://www.osakafu-u.ac.jp/osakafu-content/uploads/sites/428/pr20200225.pdf

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