(レーザー関連)大阪大学他/磁場を使ったレーザー核融合で 核融合反応数が3倍に!

=レーザー核融合による安定なエネルギー発生への新たなアプローチの開拓=

【研究成果のポイント】

  • 世界最大のレーザー装置である米国の国立点火施設(National Ignition Facility)にて、磁場を使ったレーザー核融合(磁場支援型レーザー核融合)による核融合反応の増大に成功。
  • 磁場支援型レーザー核融合では、従来のレーザー核融合※1と比べて、核融合燃料の温度が40%上昇し、核融合反応数が3倍増加した。
  • 燃料変形及びレーザー照射の誤差が核融合反応に与える悪影響を、磁場を用いることで緩和できるようになり、安定して核融合エネルギーを発生できるようになった。
  • 安定な核融合反応の実現は、究極の脱炭素エネルギーの一つである核融合エネルギーの研究を加速する。

概要
米国ローレンス・リバモア国立研究所、米国マサチューセッツ工科大学、英国インペリアル・カレッジ・ロンドン、米国ロチェスター大学及び同大レーザーエネルギー学研究所、大阪大学レーザー科学研究所で構成された共同研究チームは、米国ローレンスリバモア国立研究所にある世界最大のレーザー装置である国立点火施設 National Ignition Facility (NIF)を使い、磁場を使った新しいレーザー核融合(磁場支援型レーザー核融合)の実証に成功しました。大阪大学レーザー科学研究所の藤岡慎介教授がこの共同研究チームに参加しています。レーザー核融合プラズマに外部から強い磁場を印加することで、核融合プラズマ※2の温度が上昇し、核融合反応によって発生する中性子の数が3倍上昇することが計測されました。成果は、11月4日(金)に米国物理学会のPhysical Review Letters誌に掲載されると共に、画期的な成果として、米国物理学会が刊行する一般読者にも公開されたオンライン・マガジン Physics誌に取り上げられています。

研究の背景
核融合エネルギーは究極の脱炭素エネルギーの一つとして社会、産業界から注目されています。技術的な困難の1つは、核融合反応を起こす燃料(プラズマ)を十分な時間、十分な高温、そして十分な密度に維持することです。この困難を解決し、エネルギーを生み出す方法として、磁場によるプラズマ閉じ込め(磁場閉じ込め核融合※3)とレーザーを使ったプラズマ閉じ込め(レーザー核融合)があります。磁場閉じ込め核融合に関しては、国際協力の下、フランスに国際熱核融合炉(ITER)が建設され、まもなく実験が開始されます。

レーザー核融合に関しては、米国に世界最大のレーザー装置、国立点火施設(National Ignition Facility: NIF)があり、レーザー核融合の研究が精力的に行われています。レーザー核融合の最も単純な方式は、冷たい水素燃料を詰めたカプセルにレーザー光を照射し、カプセルを爆縮させるというものです。この爆縮により燃料が加熱され、燃焼プラズマのスポットが形成されます。この「ホットスポット」が火種となって燃料全体が燃え、大きなエネルギーが放出されます。しかし、カプセルの表面に小さな欠陥が存在する、レーザーの照射タイミングが僅かに狂うなどの不具合があると、核融合反応はすぐに停止してしまいます。もし燃料を高い温度にまで加熱できれば、許容可能なカプセルの欠陥やレーザーのタイミングの誤差の幅が広がり、このような細かな変化に対する核融合反応数の減少を緩和することができます。
近年、レーザー核融合においても、磁場が核融合燃料の温度を向上させることが明らかになっています。NIFに比べて相対的に小さなレーザー装置(日本の激光XII号レーザーや米国のOMEGAレーザー)を使った実験にて、磁場による加熱効率の改善が実証されています。今回、本国際共同研究チームは、過去の実験よりもより複雑な設計ではるかに大きなエネルギーを生み出すNIFで実験を行い、核融合点火に近いプラズマ状態においても、磁場が有効に機能することを示しました。磁場をかけると、燃料の温度が40%上昇し、核融合反応の効率が 3 倍になりました。このような温度上昇は、大規模実験における磁場支援型核融合の最初の実証で、核融合反応の頑強性と核融合エネルギーの出力を向上させるための一歩です。
本研究において、磁場はホットスポットを周囲の冷たい燃料から断熱する働きを持ち、加熱の効率を高め、最終的には反応の収率を向上させます。磁場が存在すると、プラズマ中の電子は磁力線に沿ったらせん状の軌道しかとれなくなります。その結果として、周囲の冷たい燃料への熱の流れが遅くなり、ホットスポット内に多くの熱が溜まることになります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
National Ignition Facility では、2021年8月にレーザー核融合で大きなエネルギーを生み出すことに成功し、レーザー核融合によるエネルギー発生(レーザー核融合炉)の実現性が高まったとして、世界的なニュースになりました。しかし、それ以後に行われた同様の実験では大きなエネルギー発生が観測されず、この再現に苦労していましたが、つい最近、同程度の大きなエネルギーの再発生に成功しました。再現に苦労した原因の一つは、核融合反応がカプセルの欠陥やレーザーのタイミングの誤差に極めて敏感に反応し、停止してしまうためです。磁場を加えることで、この「敏感さ」を緩和させることに成功したのが、本研究成果の意義であり、レーザー核融合による安定なエネルギー発生を実現することで、レーザー核融合に関わる他の重要物理の理解が加速します。

特記事項
本研究成果は、2022年11月4日に米国物理学会誌「Physical Review Letters」誌に掲載されました。
タイトル:“Increased Ion Temperature and Neutron Yield Observed in Magnetized
Indirectly Driven
D2-Filled Capsule Implosions on the National Ignition Facility”
URL: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.129.195002

米国物理学会が刊行する一般読者向けのオンラインマガジン Physics 誌でわかり易く解説されています.
タイトル:
“Increased Ion Temperature and Neutron Yield Observed in Magnetized Indirectly Driven
D2-Filled Capsule Implosions on the National Ignition Facility”
URL: https://physics.aps.org/articles/v15/169

用語説明
※1 レーザー核融合

高出力レーザーを用いて重水素と三重水素の混合物を高密度に圧縮すると共に、高温度に加熱することで、核融合反応を起こし、エネルギーを得る手法。日本を始め、米国、仏国、中国、ロシア等で研究が行われている。

※2 プラズマ
レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、物質を加熱することで得られる物質の状態。宇宙に存在する観測可能な物質の99%はプラズマと考えられており、太陽などの星はプラズマの塊である。

※3 磁場閉じ込め核融合
磁場の力を使って超高温の核融合プラズマを閉じ込める核融合方式。国際核融合実験炉ITER(イーター)で採用されている方式。量子科学技術研究開発機構の JT-60SA(建設中)が国内最大の磁場閉じ込め核融合装置である。ドーナツ型のプラズマの外部に設置したコイルが作る磁場とプラズマを流れる電流が作る磁場の足し合わせによって、安定にプラズマを閉じ込める。

SDGs目標

参考 URL
藤岡慎介教授
研究者総覧 URL https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/13c515ae20566e39.html
Research map https://researchmap.jp/shinsuke_fujioka
グループ WEB http://lf-lab.net

本件に関する国内の問い合わせ先
大阪大学レーザー科学研究所 教授 藤岡慎介(ふじおかしんすけ)
TEL:+81-6-6879-8749
E-mail: fujioka.shinsuke.ile@osaka-u.ac.jp
電話又はメールにてお問い合わせ下さい。

研究代表者は、
米国ローレンスリバモア国立研究所 John Moody 主席研究員
E-mail: moody4@llnl.gov

出典:
https://www.ile.osaka-u.ac.jp/ja/wp-content/uploads/2022/11/PR221125.pdf

記事の追加及び削除:
記事の追加あるいは削除を希望される場合、お手数ではございますが、以下窓口までご連絡ください。
info@symphotony.com

この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目