発表のポイント
- ナノメートルスケールの空間に閉じ込められた特殊な赤外光によって単一のタンパク質を観察
- 化学分析に有用な赤外振動スペクトルを単一のタンパク質で計測に成功
- ナノ空間における赤外光とタンパク質の相互作用を理論的に解明
- 赤外光を用いた超高感度・超解像イメージングや単一分子計測などの技術革新に向けた進展に期待
概要
分子科学研究所の西田純助教、熊谷崇准教授を中心とした研究チームは、ナノメートルスケールの空間に閉じ込められた光を用いる近接場顕微分光(注1)の先端計測技術によって単一のタンパク質を観察し、さらに化学分析として有用な赤外振動スペクトルを測定することに成功しました。
赤外光を用いると「分子の指紋」ともよばれる振動スペクトルを計測することができ、化学分析に広く用いられています。近年のナノテクノロジーの急速な発展に伴い、赤外光を用いた超高感度・超解像イメージングへの需要も高まっています。しかしながら、通常の赤外光を用いた顕微分光では、極微量試料の計測やナノメートルスケールの空間分解能を達成することはできません。例えば、一般的に感度が良いとされる赤外顕微分光装置でも、赤外スペクトルの計測には通常100万個以上のタンパク質が必要であり、わずか一つのタンパク質を測定することは不可能です。
研究チームは今回、F1-ATPase(注2)とよばれるタンパク質複合体に含まれるサブユニット(単一タンパク質)を金基板に単離し、赤外近接場顕微分光の測定を大気環境で行いました(図1)。その結果、単一タンパク質の赤外振動スペクトルを取得できることを実証しました。単一タンパク質の計測はタンパク質複合体や膜タンパクなどの高度な機能の解明において重要な技術となります。加えて、研究チームはナノ空間における高度に局在した赤外近接場とタンパク質の相互作用を記述する理論的な枠組みを構築し、得られた信号を定量的に再現することにも成功しました。これらの成果から、赤外光を用いた超高感度・超解像イメージングの技術革新に向けた進展と、生体分子の化学分析をはじめとし、様々なナノ物質への応用が期待されます。
この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。