遺跡や考古学と聞けばエジプトのピラミッドや葬祭殿、中国は始皇帝の兵馬俑、日本ならば全国各地に16万基を数える古墳あたりを思い浮かべるかもしれないが、今、一番アツいのは南米だ。Lidarを使った上空からのスキャンによる大規模発見が相次ぎ、当ニュースでも何度か取り上げさせてもらっているマヤ文明が更なる新発見に沸き返り、世界の考古学ファンの胸をざわつかせているのだ。
今回の発見の舞台となったのはメキシコ・タバスコ州。かの有名なタバスコソースの原材料・キダチトウガラシの原産地だ。紀元前1200年頃には巨石人頭像で有名なオルメカ文明が栄え、メソアメリカ文明の源となったことでも知られている。グアテマラと国境を接し、先日大量にマヤ時代の遺跡が発見されたグアテマラ・ペテン県と隣接した位置にある。もともとこのタバスコ州はマヤやオルメカの遺跡で知られビヤエルモサのパレンケ遺跡が有名なだけでなく他にも多数の遺跡が点在しているのだが、今回の遺構はこれまで確認されていたものとは規模が違う。その桁外れな巨大さは研究者たちにも驚天動地の発見だったようだ。
アグアダ・フェニックス遺跡で発見された巨大遺跡は、南北1,413m、東西399m、高さ15m、舗装された最長6.3kmにも及ぶ9本の大通りと人口貯水池が確認されており、これまで発見されたマヤ文明史上最大規模だ。更に発掘調査と放射性炭素年代測定を行なった結果、遺構が建造されたのは紀元前1,000〜 紀元前800年頃の先古典期中期。つまり、定住生活や土器の使用を始めた頃に作られたものだということが判明したのだ。これまでこの遺跡周辺には当時、小規模な村が点在するのみだったと考えられてきたが、この発見によりマヤ史は大きく重要な転換点を迎えるかもしれない。
発見の発端はアリゾナ大学の猪脵健教授とダニエラ・トリアダン氏が、メキシコ政府が集めた低解像度Lidarのデータに奇妙なズレがあるのに気が付いたことからだ。巨大な構造物のように見えるそれを、さらに詳しく高解像度Lidarで調査すると、正しく、巨大プラットフォームのような構造物の姿がありありととらえられていたのだ。発見された場所は密林ではなく割と拓けた平地で人も居住しているのだが、構造物が巨大すぎてそこに遺跡があることに誰も気が付けなかったらしい。
マヤ文明古典期に王の権力を示す為に建造された神殿ピラミッドのような高さのある遺構ではなく、平面的な基壇は周囲の風景に紛れ、その巨大さも相まって地上からでは大昔の遺構なのか、元々そういう地形なのかの判断がつかないのだ。まさにLidar技術無くしては発見できなかった遺跡の一つと言えるだろう。また、注目すべきは、この巨大な遺構が建造されたのはオルメカ文明が衰退した直後で、絶対的な権力を持つ者が存在しなかったこと。この周辺に居住していた人類は小規模な集団で採集生活を営んでいたということだ。つまり、この遺跡は採集生活から定住生活への転換期に、互いに大きな身分の差のない集団が共同作業によって建造したと可能性が非常に高いのだという。大規模な建造物の建造には絶対的な君主や階級社会の存在が不可欠というのが定説だが、このアグアダ・フェニックスの以降の発掘は、その定説を覆すものになるかもしれない。
南米では、このアグアダ・フェニックス遺跡と同様に上空からのLidar技術で発見された遺跡がある。アグアダ・フェニックス遺跡のあるメキシコ・タバスコ県と隣接するグアテマラのペテン県では密林の下にマヤの巨大都市と6万点もの建造物の存在が確認され、ベリーズでは同じくマヤの巨大農地ネットワークを発見。また、ホンジュラスでは伝説の「白い都」(猿神の都)の実在が確認され、考古学者のみならず、考古学ファンたちの熱い注目を集めた。ジャングルに覆われた遺構・遺跡の発見は困難を極めてきたが、Lidar技術の導入により近年、新発見が相次いでいる。最早、考古学界では不可欠な技術と言えるだろう。密林に覆われた遺跡や気付かずに人々がその上を行き来している遺構は、地球上にあとどれくらい残っているのだろうか。次の発見が待ち遠しい限りだ。
参考
* カラパイア
http://karapaia.com/archives/52291647.html
https://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/9/b/9b7d0bd5.jpg (Top画像)
https://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/c/3/c31aac9e.jpg (図1)
https://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/a/4/a4cca9c6.png (図2)
* 茨城大学
https://www.ibaraki.ac.jp/news/2020/06/04010843.html
* Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2343-4
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01570-8 (Natureニュースリリース)
執筆者:株式会社光響 緒方