(レーザー関連)大阪大学他/宇宙における電子加速の理論・モデルを レーザー実験で初検証

=かに星雲のガンマ線フレアの原因解明へ前進=

【研究成果のポイント】

  • 宇宙では超高速に電子が加速される現象が複数観測されている。その中には原因が未解明の現象がある。
  • 高出力レーザーを使って宇宙における電子の加速を地上で再現し、その背景にある原因の解明に取り組んだ。
  • 大阪大学発のキャパシター・コイルと高強度レーザーを使った実験を米国 OMEGA レーザーとTITAN レーザーで実施し、強い磁場を伴うプラズマ※1中で電子が高速に加速されることを発見。
  • 地上実験の適用の一例として、かに星雲で観測されているガンマ線フレアの原因が、磁気リコネクションと呼ばれる現象である可能性が高まった。

概要
大阪大学レーザー科学研究所の藤岡慎介教授、大学院生の瀧澤龍之介さん(理学研究科物理学専攻博士後期課程)らの研究グループは、プリンストン大学、ロチェスター大学、ロスアラモス国立研究所、ローレンスリバモア国立研究所、ミシガン大学、メリーランド大学(以上米国)、極限光施設原子核物理研究所及びブカレスト大学(以上ルーマニア)、エコールポリテクニーク(フランス)と共同で、米国ロチェスター大学のOMEGAレーザー及びローレンスリバモア国立研究所のTITANレーザーを用いて、レーザー宇宙物理実験を実施しました。レーザーを使って、地上に強磁場を生成し、この磁場が変形するリコネクションという現象を起こし、その結果として電子が高速に加速されることを発見しました。

研究の背景
現代の最先端の科学技術の粋を集めても、地上で人類が加速することができないほど超高速の電子が、宇宙では多数見つかっています。この加速の原因を説明する様々な理論やモデルが存在しますが、まだ説明できていない観測結果が複数あります。一例として、かに星雲で観測されている超高速の電子の加速の原因は特定されていません。そこで、本国際共同研究チームが着目したのが、磁気リコネクションと呼ばれる現象です。磁気リコネクションとは、磁力線が繋ぎ変わる(リコネクションする)現象で、磁気リコネクションによって磁場のエネルギーの一部が電子のエネルギーに移ることが知られていますが、磁気リコネクションによってどれほど高速まで電子を加速できるかは未解明でした。本研究では、地球の磁気圏やかに星雲と相似な状態を実験室で再現し、そこから加速される電子のエネルギーを直接観測することで、かに星雲のガンマ線フレアを引き起こす電子の加速が、磁気リコネクションによって起こっている可能性が示されました。

研究の内容
大阪大学レーザー科学研究所の藤岡教授らの研究グループは、国内最大のレーザー装置である激光XII号レーザーを、キャパシター・コイル・ターゲットと呼ばれる磁場発生装置に当てることで、微小な空間と短い時間内に、キロ・テスラ級の磁場を発生できることを 2013年に発表しています。この方法で発生した磁場の持続時間は極めて短時間ですが、非常に強い磁場を瞬間的に生成できます。
今回は、この強磁場発生法を磁気リコネクション用に改良し、プラズマの圧力よりも、磁場の圧力が大きい、磁場駆動型リコネクション(magnetically driven reconnection)を実験室で起こすことに成功し、その結果として、電子が高エネルギーにまで加速されることを発見しました。
磁気リコネクション中のプラズマの温度と密度の同時計測を行い、それらをコンピューターシミュレーションと比較することで、磁気リコネクションによる加速機構の中でも、直接電場加速(Direct electric field acceleration)が、最も有力な加速機構であることを示しました。
高強度レーザーを用いて宇宙の状態を再現し、その詳細を調べる科学をレーザー宇宙物理学※2と呼び、各国の高強度レーザー施設で研究が行われています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
宇宙は、極限環境下で物理学における人類の理解を試す舞台です。人類が加速することが到底できない高エネルギーの電子が宇宙で発見されており、その加速機構の解明は、物理学における挑戦の一つとなっています。6400光年も離れた、かに星雲での電子の加速機構をパワーレーザーで再現し、地上で詳細に調べるというレーザー宇宙物理は、この挑戦に取り組む上で強力な武器です。また、宇宙における加速機構を理解することは、宇宙の加速機構を用いた革新的な粒子加速器の発明に繋がる可能性があります。

特記事項

用語説明
※1 プラズマ

レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、物質を加熱することで得られる物質の状態。宇宙に存在する観測可能な物質の 99%はプラズマと考えられており、太陽などの星はプラズマの塊である。

※2 レーザー宇宙物理学
レーザーを用いて、宇宙プラズマと同等の特性を有するプラズマを生成することで、実験室での実験・計測を通じて、宇宙プラズマの理解を深める新しい学問領域。大阪大学レーザー科学研究所の高部名誉教授らが提唱した。2020 年には、レーザー宇宙物理学、特に無衝突衝撃波の実験的研究、の発展への貢献に対して、高部名誉教授、坂和准教授、と海外の共同研究者らが John Dawson Award for Excellence in Plasma Physics Research を受賞した。

SDGs目標

参考URL
藤岡慎介教授
研究者総覧
URL https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/13c515ae20566e39.html
Research map https://researchmap.jp/shinsuke_fujioka
グループ WEBhttp://lf-lab.net

本件に関する国内の問い合わせ先
大阪大学レーザー科学研究所 教授 藤岡慎介(ふじおかしんすけ)
TEL:+81-6-6879-8749
E-mail: fujioka.shinsuke.ile@osaka-u.ac.jp

ご希望に応じて取材をお受けしますので、電話又はメールにてお問い合わせ下さい。

研究代表者は、
米国プリンストン大学天文学科 教授 JI Hantao
E-mail: hji@pppl.gov

出典:
https://www.ile.osaka-u.ac.jp/ja/wp-content/uploads/2023/01/PR230112.pdf

記事の追加及び削除:
記事の追加あるいは削除を希望される場合、お手数ではございますが、以下窓口までご連絡ください。
info@symphotony.com

この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目