地球温暖化が叫ばれ出して久しい。今年の夏はその現実に則したように猛暑・酷暑が続く厳しい毎日が続いている。1891年から統計を取っている世界平均気温によれば、昨年2017年は記録開始以来3番目の高さを記録しており、今年もそれに並ぶ気温となりそうだ。殊に1990年代からは高温の年が続いている。
温暖化に伴って取り沙汰されている課題は多いが、その一つが海面上昇だ。南極大陸はその98%が氷に覆われている。14,000,000 km²の大地の上を地球上の淡水の約60%を占める量の氷の塊、南極氷床が覆っているのだ。その氷の厚さは平均で2,450m、最大で4,000mに達する。この地球最大の氷塊が全て溶けた場合、海面は60mも上昇すると言われている。近年の温暖化に伴い溶け続けていると言われる南極氷床の観測の為、NASAが新たな観測衛星を打ち上げる。
NASAの開発した地球観測衛星『ICESat-2』は極地の氷床と海氷の状態を観測し、地球温暖化による海面上昇の研究・対策の為のデータ収集を目的としており、主に南極やグリーンランドとその近海の観測に用いられる。また、同時に地球全体の植生の樹高データの収集も行い、気候変動に関わる植物の炭素循環の研究にも役立てられる予定だ。2003年から2010年に運用された『ICESat』の待ちに待った後継機となる。
観測機器としてマルチビームライダー『ATLAS』(Advanced Topographic Laser Altimeter System)を搭載し、パルス高速化とレーザーの多重化によって、急勾配や起伏の激しい地形でも高精度なデータ収集が可能となっている。波長532nmの可視緑色光レーザーを6本に分割。衛星直下を中心に3km間隔で3列に照射する。レーザーは地表で直径約10mの計測点となり、周期10kHzのレーザーパルスで0.7m間隔のサンプリングを行える。
また口径80cmのベリリウム製主鏡を備えた反射望遠鏡も搭載。地表からの反射光・散乱光を捉えて高度を計測する仕組みだ。2010年に観測を終えたICESatから8年。気候変動研究に大きな功績を遺した先代の後を引き継ぐ衛星として活躍が期待されている。IPCC第4次評価報告書によると、海面水位の世界平均は20世紀を通じて1.7mm±0.5mmの割合で上昇し、特に1993年~2003年にかけての期間では、3.1mm±0.7mmと大幅に上昇している。その原因として地球温暖化によるグリーンランドや南極氷床の融解が挙げられている。ICESat-2による観測も南極、グリーンランドを重点的に行われる。
ここで、「同じく氷の塊である北極はいいのか」と思う方もおられるかもしれないが、北極は南極とは異なり大陸ではなく海の上に浮いた巨大な氷山だ。これが大幅に溶け出したとしても、質量保存の法則により海面上昇の大きな要因にはならない。溶けた海水は温度が上がり膨張するが微量の上昇に留まる。勿論、生態系等のことを考えれば別の被害が甚大となることに変わりはない。
対して南極やグリーンランドの氷床の場合は、陸地から海へ大量の水が流入することになる為、世界的な海面上昇は避けられない。海抜の低い国や地域では存亡の危機に関わるような事態になることは確実だ。
Flood Mapという地図がある。何m海面上昇するとその地域が水没するのか数字を入力するだけで表示してくれる。Google Mapを使用しているので、衛星写真と地図の両方でリアルに水没状況を知ることが可能だ。
これが現在の状態。南極の氷床が全て溶け出したと仮定して、海面を60m上昇させてみると、
大阪や神奈川、東京、埼玉はほぼ海の下。千葉は半島から島に変化、福岡も九州から切り離されて島化し、長崎は群島化が進んでいる。佐渡島は分割されて2つの島になり、北海道の釧路や札幌も海底都市と成らざるを得ないようだ。山国であり島国である日本ですら被害は甚大。もっと海抜の低い国であれば、更なる悲劇に見舞われることは想像に難くない。
ヨーロッパではオランダ、デンマークはほぼ水没。ベルリンもロンドンもピサもこのままでは遠い未来に海底遺跡として発掘されるかもしれない状態だ。更に言えば、カスピ海は大規模拡張し、アメリカではニューヨークもワシントンも水没する。2018年現在既に水没危機を訴えているオセアニアのツバルは、13m上昇時点で完全に海の下だ。日々確実に氷床は溶け出し、その量は年を追うごとに増加している。これから先の確実な予測の為、対策の為にもICESat-2の活躍を期待したい。
打ち上げは2018年9月15日、カリフォルニアのヴァンデンバーグ空軍基地で行われる予定だ
*ICESat-2 Adds the Third Dimension to Earth
*NASA ICESat-2
https://icesat-2.gsfc.nasa.gov/
https://icesat-2.gsfc.nasa.gov/sites/default/files/BeamTracks.png (図3)
https://icesat-2.gsfc.nasa.gov/sites/default/files/Poles_Sci_large.jpg (Top画像)
*wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ICESat-2
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7a/Icesat2_in_orbit.jpg (図2)
国土交通省 気象庁
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html (図1)
*sea level rise
http://flood.firetree.net/?ll=33.8339,129.7265&z=12&m=7 (図5~7)
*AXIS
https://www.axismag.jp/posts/2018/08/99289.html
執筆者:株式会社光響 緒方