甘味は幸せだ。ケーキにアイス、たい焼き、団子にお饅頭。疲れた時に食べるチョコレートは一時疲労感を忘れさせてくれるある種のパワーアイテムだ。勿論、食べ過ぎが非常によろしくないことは、多くの人が知っているし、最近は砂糖には麻薬に匹敵する中毒性がある、なんていう話も出てきて、砂糖中毒だの砂糖を摂らないようにしようだの、色々な主義主張が飛び交っているわけなのだが、それでも、甘味は美味しいし幸せであることに変わりはない。
それにしても、どうして甘味は美味しいのか。この美味しさをケーキやアイスクリームではなく、トマトやほうれん草、ピーマンから感じられたら、世の中から野菜嫌いは消滅し、毎食毎食子供に「野菜を残すな」と言い続ける母親たちの手間は大いに減ることになり、ダイエットの為の食事制限なんてものも楽々こなせるようになるに違いない。人間は食べ物の味を舌の味蕾で感じ取り、そこから信号が脳に伝達されて『味』として認識する。つまり、甘味を甘味たらしめ我々を虜にする原因を作っているのは「脳」なのだ。そこに着目して実験を行ったのが、コロンビア大学のチャールズ・ズッカー氏の研究室だ。彼らが過去に行った実験によると、脳が感じ取った「甘くて美味しい」情報と、「苦くて美味しくない」情報は、別々の道を通って脳の扁桃体に伝えられることが分かっている。扁桃体は感情や記憶の調整を行う器官だ。ズッカー氏らは、マウスが苦いものを食べた時と甘いものを食べた時に発火するニューロンの位置を変えてしまう実験で、苦いものを食べると甘いものを食べた時のニューロンが発火するように変更されたマウスは苦いものを美味しそうに食べるようになり、逆に甘いものを食べると苦いものを食べた時のニューロンが発火するようになってしまったマウスは、甘いものを食べるのをやめてしまうという結果が出た。やはり、全ては【脳】なのだ。【脳】こそがアイスクリームやケーキを美味で幸せ、ピーマンやほうれん草を苦痛で不幸せと判断し、ダイエットを妨害し、野菜を食べない子供たちを生み出していると言っても過言ではない、かもしれない。
コロンビア大学の研究チームは、今度は苦いもの/甘いものを食べた時に発火するニューロンをレーザー光に反応して発火することもできるように変更したマウスに空のウォーターボトルを吸わせる実験を行った。水を吸おうとした時に甘い物に反応するニューロンをレーザーで刺激されたマウスは、水が出ていないのにせっせと水を飲もうとし続け、同じ状況で苦いものに反応するニューロンをレーザーで刺激されたマウスは、水を飲もうとはしなくなってしまったという。
また甘味/苦味を感じ取る機能は正常だが、扁桃体の働きを抑制されたマウスは、甘味/苦味の区別をつけることはできたが、どちらにも執着も興味も示さないという結果となった。つまり、食べたものが甘いかどうかに関わらず、脳の扁桃体が快楽だと判断したものが美味しいもの、と認識されるということになる。
となると、扁桃体が野菜を食べることを快楽と判断してくれれば、世の野菜嫌いは駆逐されるということになり、ほうれん草やブロッコリー、ピーマンは一躍人気の食材になるという逆転劇も可能なのではないだろうか。子供たちが目を逸らしがちなカリフラワーやセロリの立場も大いに改善される事になるだろうし、野菜不足で健康に不安を抱えつつも食べるのは後回しになりがちな大人たちも、夜食代わりに酒のお供にちょっとしたつまみ食いに、と口に運び、健康問題も一気に改善する可能性もある、かもしれない。まぁ、当然のことながら希望的観測なわけだが、もしそんなことが叶う技術なり薬なりが開発されれば多方面から熱烈な歓迎を受けることは間違いないだろう。
扁桃体は脳の記憶固定の調節にも大きく関わる器官でもある。ズッカー氏らの研究チームは今後、物を食べた記憶がその後の食への欲求にどんな風に影響を及ぼしていくのか研究を進めて行く予定だという。その結果によっては、食べ物の好き嫌いについての興味深い真実を知ることができるかもしれない。
参考
* GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180602-why-sweetness-taste-good/
*The Atlantic
https://www.theatlantic.com/science/archive/2018/05/why-does-sweetness-taste-so-good/561518/
https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcRnJfs_lD9PJRK8tNXxpnSlGn5mW5tcYs10O97wVowe0JYd35DZkg (Top画像)
https://icotto.k-img.com/system/press_images/000/239/089/ad042d5d1657faaeafd035375c975b30e61e3f32.jpeg?1500604856 (図1)
https://www.satofull.jp/upload/save_image/03291615_58db5f17876fd.jpg (図3)
執筆者:株式会社光響 緒方