人間の感覚である、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚。この五感のうち人はどの感覚にどれだけ頼って日々の生活を送っているのだろうか。数値化してみると、視覚87%、聴覚7%、嗅覚2%、触覚3%、味覚1%と、視覚の圧倒的勝利となる。
しかし、技術は進み、テクノロジーは不自由を不自由のままで終わらせない時代へと突入している、と感じさせる画期的な装置が開発された。
上の写真をご覧頂きたい。少しゴツ目のサングラスである。好みは分かれるかもしれないが日常生活でかけていても、例えばコンビニで買い物中にこれをかけたお客さんが居ても違和感は無いし、特に驚きも無いと思う。
しかし、このサングラスがロービジョンの方にクリアな視界を提供する視覚支援装置である、としたら少なからず驚嘆するのではないだろうか。これは網膜走査型レーザーアイウェアだ。レーザーアイウェアは視覚障碍者向けのメガネである。
眼鏡フレームの内側に超小型レーザープロジェクターを装着して、内蔵カメラで撮った映像を直接網膜に走査線を描くことによって投影し、視覚支援を行うというものだ。これにより、メガネやコンタクトレンズでは充分に視力を矯正することが出来なかった人も、鮮明な映像を見られるようになる。
映像を網膜に直接投射する為、本来人が物を見る時に必要な角膜のレンズ機能や水晶体のピント機能に頼らずに視覚を得ることが可能になる。例えば角膜や水晶体に異常を抱えていたとしても、網膜や視神経が正常な状態であればクリアな視界を手に入れることが出来るのだ。(もし、網膜の一部に異常があったとしても正常な部分に投射すれば問題なく「見る」ことが出来る)。
そして、装着者の立場に立ってみれば、今まで新聞や本を読むにはルーペを、外出時に表示や標識を見るには単眼鏡をと手をふさがれ、手間を取られてきたものが、このメガネ一つですんでしまう、というのはどんなに快適な事だろうか。しかも、従来メガネの外側にアタッチメントを装着する物が多い中、このレーザーアイウェアはメガネの内側にそれらを収納している為、違和感なく装着できる、という点も画期的と言える。レーザーアイウェア自体は1990年代初頭にアメリカで既に開発され、2000年代初頭には製品として発売もされていたが、非常に大型だったこともあり普及には至らなかった。2008年には日本の繊維メーカーが試作機を製作する等の経緯もあったが、開発がなかなか進まなかった理由は、適した光源が無かったということに尽きる。最近になって一気に進展した理由は、レーザー技術の飛躍的な発展に他ならない。
更なる進化を目指し次の目標として、小型化とバッテリーの小容量化、瞳孔の真ん中に光を収束させなければならないということや安全性の観点から、静止状態での使用を推奨しているが、動きを伴う時にもサポート出来るよう改良を加えていくということだ。現在、日本とドイツで臨床試験が進められており、事故により0.028まで低下した視力がレーザーアイウェアを装着することで0.25と読書可能なレベルまで矯正出来るという結果が出ている。
レーザーアイウェアは「Retissa」という商品名で、来年中には日本、アメリカ、ヨーロッパで発売される予定だ。価格は50万円前後が想定されているという。参考
*QDレーザ(http://www.qdlaser.com/)
*Public Relations Office GOVERNMENT OF JAPAN
*ドリームアーク
*http://www.qdlaser.com/lew/images/photo02.jpg(図1「執筆者:株式会社光響 緒方」