航空機へのレーザー照射禁止へ

航空機へのレーザー照射が相次いでいる問題で、政府は25日の閣議で空港周辺を飛行する航空機へのレーザー照射を禁止する政令改正を決定した。凧揚げ等も同時に禁止され、違反した場合には50万円以下の罰金が科される。同法施行規則も同時に改正し、12月21日に施行される。
国土交通省によると、民間の旅客機へのレーザー光照射は平成22年7月から今年9月までの間に204件。照射自体は禁止されていなかったが、危険性が指摘されている為禁止する。米軍機も対象となる。(「産経ニュース」より引用)

近年話題になっていた問題が解決の兆しを見せ始めた、というところだろうか。事が起こる度にその危険性を問題視されつつも規制されてこなかったが漸く、である。何にしろ、大事故が起こる前に罰則が設けられたことは幸いだろう。
プレゼンに使われたりすることの多いレーザーポインターだが、たかがレーザーポインター、では済まされない場合がある、ということを良く知っておくべきだ。
レーザー製品に対しては使用者への傷害を防止・予防する為に安全規格が設けられており、日本ではIEC(国際電気標準)の国際規格を採用し、「JIS C 6802」が規定されている。内容は以下のようになっている。

安全クラス 危険評価 警告表示
クラス1 人体に傷害を与えない低出力(0.39μw以下) 不要
観察用光学器具の使用も可。
クラス1M 裸眼で直視しても安全(波長302.5nm~400nm) 不要
光学器具の使用で目に障害が生じる危険性有り。
クラス2 意図的な凝視は危険。(波長400nm~700nm)
光学器具の使用でもリスクは増加しない。
クラス2M 可視のレーザー。裸眼の場合は瞬間的な直視は可。
光学器具使用で直視すると露光による目の傷害の可能性有り。
クラス3R 直視すると目に障害が生じる可能性はあるがリスクは比較的小さい。
リスクは直視時間が長い程増加する。
クラス3B 直視することは短時間でも危険。
拡散反射光の直視は安全である。
クラス4 直視及び皮膚への照射は危険。
拡散反射光の直視も目に障害を負う危険性がある。
火災・火傷の危険性有り。

(*この他にも、アメリカのFDAによる規制があり、アメリカでの販売に関してはそちらの要求事項をみたすことが条件となっている。)
(*日本ではクラス2以上のレーザーポインターの製造・販売は禁止されている。)

通常の販売許可を受けているレーザーポインターであれば、10m先を指し示す程度の威力しかない為、航空機を妨害するようなことはないのだが、こういった事件に使用されているのはもっと強力な物だ。その威力を規制しているとはいえ、それは製造・販売においてのみであって、個人の所有や使用には及んでおらず、また、海外からの個人輸入、海外で購入しての国内への持ち込みも同様に規制の対象外である。
インターネットの動画サイトには、強力なレーザーポインターを使って風船を割ったり、マッチ棒に火を点ける等の様子がアップされているが、その強度のレーザーが人間の目に照射されればどうなるかは想像に難くない。

昨今、各地で頻発している航空機へのレーザー照射は、民間機に対して過去6年間で計152件、神奈川県厚木基地(米軍・自衛隊共同使用)では夜間着陸の際に70件以上(平成25年以降)が報告されており、未報告の件数もあるだろうことを考慮するとかなりの回数となる。(航空機だけでなく、山口県の徳山駅において停車中の新幹線の運転席にレーザーが照射され、JRが警察に相談しているという事例もある。)
また、これは日本国内だけの問題ではなく、イギリスのヒースロー空港では副操縦士が照射されたレーザー光によって片目に深刻な障害を負った事例があり(この副操縦士の目は未だ職務復帰できる状態にはないという)、また、ベトナム・ハノイのノイバイ国際空港でもレーザー照射事件が相次ぎ、国家民用航空安全委員会がテロ防止指導委員会に対策に取り組むよう指示を出している。
アメリカにおいても航空機やヘリコプターに対する同様の事件が頻発しており、FBIの報告によるとその数は1日当たり約10件にもの上るという。カリフォルニア州では半年にわたってカーン郡保安官事務所所属のヘリコプターにレーザーポインターを照射していた罪で26歳の男性に懲役1年9か月の判決が下されている。他にも2014年3月には病人を救急搬送中のヘリコプターに複数回照射を行い、24歳の男性が懲役14年の判決を受けている。(これは同様の事件の中で世界一厳しい判決と考えられている)。

事件は主に着陸態勢にある航空機を地上から照射する、という状況で起こっていることが多い。着陸間際はパイロットにとって最も重要な時間であり、たとえ直接レーザー光が目に入らなかったとしても、注意がそがれることで思いもよらない事故に繋がることもある。当然、目に入ってしまえば視界を奪われ大事故を引き起こしかねないということは言うまでの無いことだろう。前述したイギリスでの例のように、パイロットの目に深刻な事態を引き起こすこともある。更に、住宅地が隣接する空港で最悪の事態が起これば乗員乗客のみならず、その地域の住民をも巻き込んだ大惨事を引き起こすことは必至だ。
日本を含め各国対応に苦慮しているが、レーザー光の威力によっては遠方からの照射が可能な為、報告件数は多くとも犯人逮捕には至らないというケースが多い。アメリカのFBIや各都市、プエルトリコ等のように賞金をかけて犯人特定に繋がる情報を募るなど、様々な対策を取っている。

大事故に繋がりかねないことを何故するのかは分からないが、今回定められた罰則だけでなく以下のような法律があることを、愚行に走っている人たちは知っておくべきだろう。

航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律
航空機墜落罪(第2条第1項) 航行中の航空機を墜落させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
航空機墜落致死罪(第2条第3項) 航行中の航空機を墜落させて人を死亡させた者は、死刑、無期又は7年以上の懲役に処する。
航空機機能喪失致死罪(第3条第2項) 業務中の航空機の航行機能を失わせて人を死亡させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。

一先ず日本国内に於いても規制は設けられたが、それでも航空機へのレーザー照射が続くのならば、更なる規制や罰則の強化が望まれる。

参考文献
産経新聞 産経ニュース
CNN.co.jp
軍事・ミリタリー速報
iza ニュースまとめ

「執筆者:株式会社光響 緒方」