米・メリーランド大学とカリフォルニア大学バークレー校は、2016年9月、「時間結晶」という新しい形態の物質の作成に成功した。
結晶とは原子や分子、イオンが空間的に規則正しく周期的に配列された物質のことだが、時間結晶はその配列を時間的な方向に広げた物質のことだ。
時間結晶の概念は比較的新しく2012年のことだ。マサチューセッツ工科大学のフランク・ウィルチェック氏(2004年ノーベル物理学賞受賞者)によって提唱され、ローレンス・バークレー国立研究所がその生成方法を発表していた。
しかし2015年カリフォルニア大学バークレー校と東京大学の研究者たちによって「生成は不可能であると証明された」と発表されるなど、一時はその存在を否定されている状況だったが、それが今回生成に成功した、とのことだ。しかも一つの研究機関でのみではなく、相次いで二つの研究機関が成果を発表したのである。
米メリーランド大学とカリフォルニア大学バークレー校との共同量子研究所は、複数のレーザーを利用し、10種のイッテルビウムイオンの鎖に3種類の挙動を引き起こすことで時間結晶を作り上げた。
図1
イッテルビウムイオン10個を円状に配置し、平衡状態を崩す為にレーザーで磁場を発生させ、次に1つのイオンにレーザーパルスを照射してそのスピンを反転させる。すると、相互作用により次のイオンがスピンを反転させ、連鎖してその次のイオンにも同じことが生じる。この手順を何度も繰り返すことで時間によって繰り返されるパターンを作り出した。イオンは反転を作り出したパルスの半分の周波数に反応し、これは1秒間に2度弾いた筈のピアノの鍵盤が1秒間に1回しか鳴らなかった、というような奇妙さだという。
図2
この一か月後、2016年10月にはハーヴァード大学の研究グループも、特殊なダイヤモンド結晶を使用した実験で、同じく時間結晶の生成に成功している。強い相互作用と不規則性を持つ100万個の量子電子のスピンをマイクロ波パルスで反転させると、マイクロ波パルスの3倍の周期でスピン反転を繰り返したとのことだ。
この2つの実験では共に、時間結晶を一度生成すると、その後に与えるパルスの周期や強さに変更を加えても結晶内の振動に変化は見られなかった。
この時間結晶生成の成功は、計算速度が通常のコンピューターの一億倍超と言われる量子コンピューターの開発に応用できると考えられている。
参考
*Mail Online Sciense&Tech
http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-4295370/Two-studies-impossible-time-crystals-real.html#ixzz4azA7CCrW
*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52235491.html
*シーズン
http://justmatsumoto.com/timecrystal/
*Gigazine
http://gigazine.net/news/20161007-world-first-time-crystal/
*http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/9/3/9340cb4f.jpg(図1)
*http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/6/1/611580e9.jpg(図2)
「執筆者:株式会社光響 緒方」