目を紫外線から保護する、或いはファッションとして色付きレンズの眼鏡を使用する人が増えている。目から入った紫外線が肌の日焼けの原因の一つだ
ということもあり、特にこれからは需要の高まる季節だ。
従来、眼鏡のプラスチックレンズのような透明樹脂の染色は、高温に熱した染色液にレンズを浸して作る浸染という手法が使われ得てきたが、熟練者でも場合によっては1時間以上の作業時間になることがあること、手作業工程の為オートメーションが困難であること、また、染色液の時間経過や濃度変化による変色、廃液による環境問題とその処理費用、ポリカーボネート製等の高屈折レンズの難染色レンズに対応出来ない、といった多くの問題を抱えてもいる。
図1
この問題の解決の為に開発されたのが、レーザーによる染色と気相転写技法を併用した技術だ。
気相転写とは昇華性染料を転写紙にプリンターで印刷し、レンズと非接触の状態で真空装置内にセットする。真空状態で転写紙を加熱し染料を昇華、レンズに蒸着させ、その後オーブンによる加熱で定着させるという技法だが、これも、高温長時間の過熱による高屈折レンズ等は基材の黄変とひずみの発生が懸念されていた。
レーザー染色法は、上記の気相転写法で染色されたレンズをオーブンで加熱する代わりにレーザー染色装置に運ばれレーザー光を照射することで染料を定着させる。レーザー照射部は出力30WのCO2レーザーと集光レンズで構成され、走査はXYステージを使用。レンズ表面の温度を測定する放射温度計を設置してレンズ表面の温度に応じてパワー制御を行い、加工温度を一定に保つことを可能にしている。
図2
図3
これによって、染色困難とされてきたポリカーボネート製レンズへの染色が可能になり、中屈折レンズ、高屈折レンズへの均一で再現性の高い染色も実現した。また、これまで熟練の職人によって最大1時間かかっていた染色をこの装置を使うことで12分にまで短縮することに成功し、大幅なスピードアップとコストダウンを実現している。
とは言え、課題も残っており、色の濃いサングラス用レンズに発生する凝集ムラ、高屈折凹レンズの熱による変形、埃等による色抜けの対策が急がれている。レーザーによる着色装置の価格に関しても、課題の一つとして残されている。
今後の予定としては、2年後の市販化を目指しており、価格は1,000万円を切るように調整して行くとのことだ。
参考
*株式会社ニデック
http://www.nidek.co.jp/
*OPTRONICS ONLINE
http://www.optronics-media.com/special/20151005/35903/
*中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20170606/CK2017060602000052.html
*http://blinc.co.jp/blinc/wp-content/uploads/2016/06/randolph7.jpg(図1)
*静岡県工業技術情報
https://www.iri.pref.shizuoka.jp/issue_index/upfiles/No82_08.pdf(図2)
*https://www.jst.go.jp/a-step/seika/img/AS2511144K.png(図3)
「執筆者:株式会社光響 緒方」