20年後には半数が50年越え。トンネル保守点検はレーザーの時代へ。

日本全国にあるトンネルの総数は10,102本、距離にして4,300km。起伏に富んだ地形の多い国土であることを考えれば当然の数と言えるかもしれない。高度経済成長期の1954年(昭和29年)から1973年(昭和48年)の間にはその他のインフラの整備と共に多くのトンネルもまた建設されている。

 図1

そして現在、そのトンネルの老朽化が問題となり始めている。使用されているトンネルのうち建設後50年以上経過しているものは全体の20%。これが10年後には34%、20年後には50%と増加の一途を辿ることになる。より長く、より安全に使用を続ける為には定期的なメンテナンスと安全管理が必須となる。

現在主流である打音検査法は、専門の検査員による目視、次にハンマーでトンネルを構成するコンクリートを叩き、その音でコンクリート内部のひび割れや浮きを判断し、そこで欠陥が発見されれば除去・補修を行う(「叩き落とし」という)、というものだが、検査速度が遅くこれから益々増加して行く現場に対応しきれない、接触検査であることから作業員に危険があり、また、交通量の多い場所では音が聞き取りにくい等の問題が指摘されており、新技術の開発と導入が急がれている。

遠隔・非接触の検査方法として、強力なレーザー光を表面に照射することで振動を与え、その振動を詳細に調べることでコンクリート内部の微細な破損を検出する、という「レーザー誘起振動波診断技術」が開発され、JR西日本とレーザー総合研究所によって実証実験が行われたが、計測速度が2秒間に1回に留まっており、効率化と高速化を模索していた。

 図2

*レーザーによる遠隔・非接触の点検保守作業イメージ。(図:理化学研究所)

 図3

*レーザー誘起振動波診断技術。 (図:理化学研究所)

そして、2016年11月、理化学研究所、レーザー総合研究所、日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発機構の合同研究グループは、保守保全作業の自動化・効率化の為に「レーザー高空間分解能計測」、「レーザー打音」、「レーザーコンクリート切断」の3つのレーザー技術を開発し、これらを合わせた屋外試験に成功したことを発表した。

理研がコンクリート表面の微細な状態を検出する為に「遠隔的散乱光検出・干渉計測・分光計測」の3つの方法を融合し、高空間分解での表層部3次元計測を実現し、これは、幅0.15mmのひび、0.1mmの凹凸を検出することを可能にしている。前述した「レーザー誘起振動波診断技術」の高速化をレーザー総研と量研機構が担い、以前を大きく凌ぐ1秒間に50回という高速での検査を実現している。また、原子力機構は、破損・脆弱箇所を除去する技術として「レーザーコンクリート切断」技術の原理実証と、高速化・効率化の為のデータベースの構築を行ったという。

今回実施された実験は、コンクリートの共試体に対して行われたもので、実際の現場での実証ではなかったが、人間が行ってきた「目視」、「打音検査」、「叩き落とし」の3つの作業の全てを自動化し、トンネルを含むインフラの保守保全作業を、遠隔・非接触で安全且つ高速で行える道筋が出来た、と考えられる。

2017年6月、静岡県は理化学研究所と共同で、トンネルの維持管理の為の点検業務にレーザー技術の導入を検討していることを発表した。

県から実証実験の為の現場や情報の提供を受け、理研は16年には屋外でのレーザー計測機の精度や動作を確認し、国土交通省が目安としている0.2mmのひびの検出も可能なレベルに達していると発表している。18年度には車両に搭載した計測器による実験を予定しており、これまで点検時に起こっていた渋滞を緩和する為、時速50km走行での正確な計測を目標としている。本格導入は2019年以降を予定しているとのことだ。

国内の道路のトンネルは10,102本、これに加えて鉄道におけるトンネルが4,899本。総距離は3,800kmあまり。道路と同じく高度経済成長期に建設されたものの老朽化が懸念されている。その中での新技術の導入は正に急務である。一日も早い本格稼働が期待されている。

参考
*http://blogimg.goo.ne.jp/(図1)

*理化学研究所
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161202_1/(図2,3)

*静岡新聞
http://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/370599.html

*http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo1_1.pdf

「執筆者:株式会社光響 緒方」