世界初の非侵襲血糖値計測装置。中赤外光レーザーで。

量子科学技術研究開発機構は、採血をせずに血糖値を計測する非侵襲血糖値計測技術を開発成功に伴い、実用化のためのベンチャーを立ち上げたことを発表した。

糖尿病患者にとって血糖値測定は治療の一環として、日常的に行わなければならない。方法としては、先ず、病院での採血による計測がある。前日の夕食後から絶食し、朝一番に空腹の状態で採決を行う。

 図1

*採血型自己血糖値センサー(微侵襲血糖値計測装置)

自己測定を行う場合は、血糖値測定器、穿刺器具、測定チップを使って行う。穿刺器具で指先等に針を刺し、測定に必要な血液を採取する。微侵襲血糖値測定器の進歩により、刺す痛みはほとんどなく、「少しチクッとする程度」で測定を行える。但し、穿刺器具は感染予防の為、毎回交換する必要があり、自己測定は多ければ1日に7回(食前・食後・就寝前)行う必要がある。病状や医師の診断によって回数は異なることがあるが、頻度によっては年間20万円強の負担となる場合もある。また、採血を行う医療機関側からも負担低減を望む声があがっている。

長らく研究されてきた近赤外光による非侵襲血糖値計測は、等以外の血中成分(脂質やたんぱく質等)や体温のような環境条件に左右されることが多く、実用に耐えうるだけの正確な数値を得ることが難しかった。生体上皮の毛細血管への到達自体は容易だが、1.5μmの光に対するグルコースの吸収に起因する光強度の変化は0.4%に止まっている。

これに対し、今回発表され実用化を目指している非侵襲血糖値計測装置は、手のひらサイズの器具に指を乗せ、中赤外光レーザ(波長6μm〜9μm)を指先に5秒間照射するだけで計測できる。また、特定の物質のみを対象に選択的にエネルギーを吸収させることが可能な為、グルコースの吸収計測を容易に行うことが出来る。その精度は国際標準化機構(ISO)の定める測定精度を充分に満たしていることも確認されている。

 図2

*今回開発された非侵襲性血糖値計測装置。

研究チームは、反射率の高い鏡を向かい合わせた「共振器」の中に非線形光学結晶を設置し、光を結晶に照射し、その光よりも波長の長い2つの光で発振する「光パラメトリック発振(OPO)技術」を応用し、固体レーザーの最先端技術と組み合わせることで、この高輝度中赤外レーザーの開発に成功した。

 図3

*指先ほどの大きさのイッテルビウム添加ヤグレーザー6)(左)で波長1 µmの近赤外光を発振し、その光を同程度の大きさのパラメトリック発振器(右)で波長を変換し、高輝度中赤外レーザー(波長:6μm〜9μm)を発生する。

糖尿病患者人口は増加の一途を辿っており、厚生労働省による2016年患者調査の概況(3年ごとに実施)によると、国内の糖尿病患者数は316万6,000人と前回調査から46万人の増加となっている。

これは日本だけに止まらず世界的にも同様の傾向がみられ、WHOの調査によると2015年時点で患者数は4億2,000万人、1980年の同調査と比較して4倍近くまで上昇しており、2035年には6億人に迫るだろうと試算されている。全人口の1/10が糖尿病患者、という時代がすぐそこまで来ているのだ。

同時に糖尿病治療関連や血糖値計測機分野の市場も急速に拡大を続けており、2019年には糖尿病治療薬の市場は、3,700億円を超えるという経済予測も出ており、これから益々の過熱が予想されている。

量子科学技術研究開発機構は、このレーザーをコア技術として、ベンチャー企業「ライトタッチテクノロジー」を設立し、今後、大学病院等で臨床試験を行いPOC(概念実証)取得する予定だという。この取得により、医療機器メーカーとの協業や治験、薬機法の承認を経て一般向けの事業展開を目指していく方針だ。製品化までの期間は5年を目標にしているという。

参考
*国立研究開発機構量子科学技術研究開発機構
http://www.qst.go.jp/topics/itemid034-002616.html(図1、3)
*糖尿病ネットワーク
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2017/027218.php(図2)
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2014/022710.php
*一般社団法人日本生活習慣予防協会
http://www.seikatsusyukanbyo.com/statistics/2016/009087.php
*厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/index.html

「執筆者:株式会社光響 緒方」