世界における原子力発電の割合は、10.6%。全体の割合としては40%を占める石炭と比べても決して多いわけではない。(国別に見れば40%以上を原子力が占める国もある)。
図1
*世界各国発電供給量割合(IAEA2014年発表に準拠)
しかし、他の発電と違って必ずついて回るのが廃炉の問題だ。内部の放射線量は非常に高く、廃炉を決定したとしてもその方法は困難なものとなる。大規模な事故を起こして廃炉にせざるを得なくなったものは尚更だ。
ドイツのミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所のトーマス・フォルマール所長によると、最善の策は「人間を排除すること」だという。
つまり、遠隔操作可能なロボットによる廃炉作業が望ましい、ということだ。
しかし、これもまた道程は容易ではない。
日本国内でも福島第一原発の廃炉作業に向けて、幾つかのロボットが投入されてきたが、事故により複雑化した内部の状況や放射線量の高さによる機械の不調等で、目覚ましい成果を未だあげられずにいる状態だ。
原発内の作業に必要とされるのは、障害物を避ける柔軟性、繊細な作業が可能であり、且つパワーがあること。
それを満たすのではないか、と現在注目を集めているのが、イギリスのOC Robotics が開発を進める「Laser Snake2」だ。
図2
*Laser Snake2画像
原子力施設廃棄作業を想定して作られたこのヘビ型アームロボットは、全体に張り巡らされたワイヤーロープでジョイント部分を動かし、個別に伸縮させることでヘビのようにしなやかで柔軟な動きを実現している。それにより、狭く複雑な構造の現場でも、本物のヘビのように滑らかに移動し、作業できるように設計されている。
アームの中は空洞になっている為、光ファイバーによる高出力レーザー他、各種のツールを取り付け可能で、例えば強力なレーザーカッターを取り付けることで、大気中、或いは水中での障害物撤去作業に力を発揮するのではないかと考えられている。
実際、2016年11月に廃炉作業中のセラフィールド原子力施設に於いて、Laser Snake2の実証実験が行われ、炉の分厚い金属壁の切断に成功している。
切断は高度に収束されたレーザー光で対象となる姻族壁を切断し、切断面の溶融物に高圧エアーを吹き付ける非接触作業の方法をとり、汚染された物であっても安全に切断し、解体可能であることを証明した。
*セラフィールドでの実証実験映像。
また、同年1月には廃炉作業では必須となるとみられる水中実験にも成功している。
図3
図4
今後、OC Roboticsは、プラント内でのアーム配置が容易に行えるか、レーザー切断後の周囲への損傷の有無、酷暑換気による浮遊微粒子の影響等、様々な実験を行い、製品化への道筋を付けていく方針だという。
世界ではこの先25年で約200基の原子炉が閉鎖を予定している。また、ベルギー(2025年)、ドイツ(2022年)、スイス(2034年)、台湾(2025年)は原子力発電の撤廃を目標に掲げている。
廃炉は原子炉の規模と古さによっては巨額のコストと膨大な時間を要する可能性があり、現在廃炉作業中のドイツ・ミュルハイム・ケールリッヒ原発の費用は8億ユーロ余りに達すると試算されている。また、完了までの期間も、炉の冷却と使用済み燃料棒の搬出のみで2年を要し、現在行っているタービン他の周辺機器の解体・搬出も数年の期間を見積っている。
ロボットアーム技術の開発に伴い、初期の解体作業よりも20~30%の時間短縮が可能となってきており、また、原子炉のコアであるプラント中心部の解体も、防護服を纏った技術者による手作業ではなく、ロボットなどの新しいテクノロジーを活用する戦略を積極的に取り入る動きが活発化している。
これらを受けて、世界の廃炉ビジネス市場も過熱して行くと見られており、更なる技術革新が求められていく事は必須だ。廃炉事業の市場規模は、2016年の48億ドルから、2021年には2倍近い86億ドルに膨らむと予想されている。
参考
*Sustainable Japan
https://sustainablejapan.jp/2017/03/10/world-electricity-production/14138(図1)
*OC Robotics
http://www.ocrobotics.com/(図2−4)
*MIT Technology Review
https://www.technologyreview.com/s/602980/this-laser-toting-tentacle-carves-up-old-nuclear-hardware/
*ガジェット通信
http://getnews.jp/archives/1874118
*REUTERS
https://jp.reuters.com/article/nuclearpower-plant-dismantling-idJPKBN1970QZ?sp=true
「執筆者:株式会社光響 緒方」