天王星・海王星で降る『ダイヤモンドの雨』再現。X線自由電子レーザー


図1

「ダイヤモンドの雨が降る」。ファンタジーやSF感の漂う言葉だが、実際にこの雨が降っているとされる場所がある。
天王星と海王星だ。天王星型惑星(巨大氷惑星・アイスジャイアント)に分類されるこの2つの星は、メタン・アンモニアを含有する氷や液体状態の水を主成分した巨大惑星で、太陽系に於いては土星よりも外側この2つを指している。


図2
*左:天王星、右:海王星

過去には木星型惑星(巨大ガス惑星・ガスジャイアント)に分類されていたが、1977年に打ち上げられたボイジャー2号による観測で、1986年には天王星が、続いて1989年には海王星が、ガス成分は予測よりも低く、水・メタンが豊富であることが判明。以後、天王星型惑星、というカテゴリーに分類されている。天王星、海王星共に青い美しい色をしているがこれは、メタンや水が赤色光を吸収し、青色光だけを反射している為だ。まるで薄青い真珠のように美しく、しかも強く光を反射する為、天王星は恒星ではないか、とされていた時期もあった程だ。そして、太陽系の中で地球から最も離れたこの2つの星は、ダイヤモンドの雨が降る。ダイヤモンドの生成条件は非常に限定されており、高温・高圧が必須となる。両星共にその条件を満たし、且つ、大気の15%を占めるメタンガスが好条件下でダイヤモンドに生成される。そして、生成されたダイヤモンドが雨粒のように降り注ぐのだ。まさにファンタジーワールドだが、残念なことに直接目にすることは不可能だ。人間が内部に入るには、天王星も海王星もあまりにも過酷な環境だからだ。
しかし、このダイヤモンドの雨を、研究室に再現することに成功した、と衝撃的な発表があった。研究者たちは、SLAC国立加速研究所(カリフォルニア州・メンロ―パーク)のX線自由電子レーザーを使い天王星型惑星の環境再現実験を行った。


図2

巨大氷惑星の中間層ではメタンは炭化水素鎖を形成し、より深い層になると高温・高圧によってダイヤモンドに生成されると考えられている。
その為、研究者たちは惑星大気中のメタン(CH4゜)を再現する為に同じく炭素と水素からなるプラスチックであるポリスチレンを使用し、高出力レーザーで最適な圧力と温度を加えた。最初の衝撃波は小さく、ゆっくりと、次の衝撃はそれよりも強く加え、衝撃が重なると圧力がピークを迎え、その瞬間にダイヤモンドが形成されたという。最後の僅か50フェムト秒のLCLSからのX線パルスを使ってその瞬間の反応を調べた結果、数秒間のうちにダイヤモンドが形成される様子を観測することに成功した。ポリスチレンのほとんどの炭素原子がダイヤモンドとして生成され、閃光実験では、もっと低い圧力でも同じく炭素物質であるグラファイト(黒鉛)やダイヤモンドが生成される傾向が確認されている。非常に短時間の間でしか実験室では形成されない為、このダイヤモンドの構造を的確にとらえるには極めて強力で高速なX線パルスが必要不可欠であり、今回用いられたX線自由電子レーザーは、最も実験に適していたという。
実験室で形成されたダイヤモンドは極々小さなナノダイヤモンドだが、実際の天王星や海王星で実際に降っているのは何百万カラットという地球上では考えられない程巨大なものである、とも推測されており、コア周辺に厚い層を成していると考えられている。また、最近の研究では土星と木星にもダイヤモンドの雨が降っている可能性が示唆されており、土星では年間1000t余りのダイヤモンドが形成され、厚さ30,000kg、重さにして1,000万tが存在している可能性があるという。更に、木星では固体ではなく液体に溶融したダイヤモンドが海を形成している可能性も示唆されている。今現在の技術でこれらを確認することは不可能だが、遠い将来には、ロボット探査によって観測や、或いは採掘が可能になるかもしれない。そこには恐らく、私たちが想像するファンタジックな「ダイヤモンドの雨」とは大きく異なる、宇宙の神秘の光景が広がっていることだろう。

参考
*SLAC
https://www6.slac.stanford.edu/news/2017-08-21-scientists-create-diamond-rain-forms-interior-icy-giant-planets.aspx(図2)
*Gigazine
http://gigazine.net/news/20170828-diamond-rain/

*GIBEON
http://www.gibe-on.info/entry/uranus/

*nature astronomy
https://www.nature.com/articles/s41550-017-0219-9

*NATIONAL GEOGRAPHIC
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8440/?ST=m_news

*Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%8E%8B%E6%98%9F(図2)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E7%8E%8B%E6%98%9F(図2)

*World Luxury Diamonds
http://www.world-luxury-diamonds.com/cms2/wp-content/uploads/2017/02/3-2.jpg(図1)

「執筆者:株式会社光響 緒方」