お肉は美味しい。
超高級ブランド肉からスーパーの割引シールの付いた肉まで、値段もピンからキリまで。懐事情に合わせて各国皆様それぞれに肉を堪能しているわけだけれども、ちょっと財布の中身が涼やかな時、お手頃価格で買えて調理バリエーションも豊富なもの、と言えば、「挽き肉」だ。メンチカツに麻婆豆腐にツクネに餃子、大人も子供も皆が大好きハンバーグ。どれもこれも定番の家庭料理で、挽き肉は不可欠だ。
お役立ち食材の筆頭とも言える挽き肉だが、そもそも、どこの部位の肉なのか。挽き肉以外の肉でも、スーパー等の表示は本当に正しいのか。ぱっと見ただけで分かってしまう目利きができる人は、専門家以外ではそうそう居ない。挽き肉ならば尚更だ。合わせて混ぜて挽いてしまえば、元が何やらどこの部位やら見ただけでは誰にも分からなくなってしまう。食品偽装のニュースを目にする度に多少の不安を覚えてしまうのも仕方のないことだろう。
この消費者の不安を解消してくれる研究が、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学で進められている。肉の分子が発するスペクトルというエネルギー信号を捉えるレーザー分光機を使って、挽き肉の中に内臓や他の動物の肉が混じり込んでいないかを正確に識別してくれるというのだ。肉は部位によって化学組成が異なる。ということは部位ごとに発しているスペクトルもまた違っているわけで、レーザーに対してもそれぞれ違った反応を示すことになる。
その反応をスペクトルのデータベースと照合して、その肉がどの部位に当たるのかを特定するのだが、その精度は何と99%に達するのだという。
このシステムの開発に当たって研究者たちが最も力を注いだのは、このスペクトルのデータベースの作成だ。レーザー分光機そのものはすでに市販されているものだが、データベースはそうはいかない。現在構築されているデータベースの中には既に6種類の臓器の物が含まれているとのことだが、順次その数を増やしていく予定だという。
これまでの挽き肉偽装を暴く検査にはDNA鑑定が使われることもあったが、これは、牛肉に豚肉が混ざっている場合は分かるが、牛肉に牛の内臓が混ざっていても分からない、というような問題があった。肉も内臓もDNAは同じなのだから仕方がない。しかも、それが一体どの内臓なのか、などということは調べようがなかった。
2007年に某肉加工業者による大規模な偽装事件で、牛挽き肉に豚挽き肉を混ぜたり、鮮度の落ちた肉に鮮血を混ぜて消費期限を誤魔化したりという偽装が発覚したわけだが、何もこれは国内に限った話ではない。2012年にはアイルランドでハンバーガーに馬肉が混入していることが発見されたり、フランスの冷凍食品会社のラザニアが馬肉100%だったことが発覚して大問題になっている。欧州では馬は犬と同様にコンパニオンアニマルとして扱われるので基本的に馬肉を食べない地域が多い。(ルーマニア辺りは食べるらしいが)。この偽装が発覚した時は、日本人が思っている以上の衝撃だったのではないだろうか。また、昨年にはブラジル産鶏肉が衛生基準や化学物質の問題で大騒動を引き起こしている。
世界各地で悪いことを考える人はいるもので、こういう事件は規制しても規制しても後を絶たない。世間様が忘れたころにまた繰り返している印象だ。
現在は一部の政府機関や業界団体の検査にしか使われていないこの装置だが、データベースが完成し、製品化され市場に出回るようになれば、状況は大きく変わるのではないだろうか。
一家に一つ装置があれば、スーパーで買ってきたお肉をピピッと検査、自宅で安心簡単チェック。というような日が来るかもしれない。一般化されるのを待望したい製品ではあるのだけれども、本当のところは、そんな心配をしなくてもいい環境、を望みたいところだ。
*ニューズウィーク 日本版
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/12/99-4_1.php
*ニュースダイジェスト
http://www.newsdigest.de/newsde/news/featured/5118-954.html
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執筆者: 株式会社光響 緒方