理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センタービームライン開発チームの井上伊知郎基礎科学特別研究員、ビームライン研究開発グループの矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センター光源基盤部門の後藤俊治部門長らの共同研究チームは、新しいX線光学技術「ハーモニックセパレーター」を考案・開発し、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAにおいて従来よりも100倍明るいX線レーザービームを作り出すことに成功しました。
大型放射光施設「SPring-8」など従来のX線光源は、放射されるX線の波長が多岐にわたるため、分光器を通して、特定の波長のX線のみを抽出しています。しかし、2結晶分光器を通すとX線のバンド幅は元の0.01%程度に小さくなるため、X線の強度が落ちます。一方で、近年、世界各所で建設・運用が進められているXFELや次世代放射光といった最先端X線光源では、ある特定の波長とその近傍の波長のX線が強く放射されます。このとき、各波長のバンド幅は1%です。分光器を通さずに、1%というバンド幅を維持したまま特定波長のX線を抽出できれば、より高強度のX線の利用が可能になります。
今回、共同研究チームは、全反射ミラーとX線プリズムを組み合わせたハーモニックセパレーターという光学技術を考案しました。この方法ではまず、X線を全反射ミラーに入射して、抽出波長よりも短波長のX線を取り除きます。さらに、プリズムを通した後にスリットを使って、抽出波長よりも長波長のX線も除去することで、分光器を通すことなく特定波長のX線を抽出することに成功しました。この光学技術を使って研究チームは、SACLAから放射された光子エネルギーが10keV(波長約0.124ナノメートル、1nmは10億分の1m)のX線レーザーから、2次高調波の20keV(約0.062nm)や3次高調波の30keV(同約0.041nm)のX線レーザーの抽出を試みました。その結果、分光器を使った従来のSACLAの高調波光と比較して、約100倍の強度の高調波X線レーザービームを作り出すことに成功しました。
今後、開発した光学技術をXFELや次世代放射光と組み合わせることで、従来よりも2桁以上明るいX線の利用が可能になり、X線計測の飛躍的なハイスループット化や高速化の実現が期待できます。
背景
1895年のレントゲンによるX線の発見以来、科学者たちはより明るい高輝度なX線を求めてさまざまな光源を開発してきました。X線光源の歴史の中で大きな転機になったのが、約60年前、放射光をX線光源として利用し始めたことです。それ以来、放射光X線光源はさまざまな改良や進化を重ね、その明るさを飛躍的に増大させてきました。
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