何かと厳しい現代社会は非常にストレスフルだ。夢も希望も無い、という程過酷なわけではないけれども、偶には種々諸々のリアルから目を逸らして力いっぱい現実逃避して楽しみたい。そんな時に訪れたいのが夢の国。
そして、誰もが行けて大人も子供ももれなく楽しめる夢の国、と言えば、言わずと知れたディズニーだ。夢の国演出の為の徹底ぶりで知られるディズニーだが(権利関係での徹底ぶりも凄まじいが)、それはアトラクションやスタッフだけに留まらず、ショーに関しても同様だ。ショーの完成度をより高める為のロボット開発にも余念がないディズニーは、これまでにも、特徴のありすぎるロボ達を発表している。垂直な壁を走行する車型ロボや、人間のように自然に滑らかに腕を動かすロボ、先日ここでも紹介した棒型宙返りロボ「stickman」もDisney Researchが開発したものだ。
そして、前回の「stickman」の発表から時をおかずに、またしても新たな宙返りロボットが発表されたわけなのだが、その進化のスピードは驚天動地の域に達していると言っても過言ではない。百聞は一見に如かず、だ。先ずは下の動画でその驚きの光景をご確認頂きたい。
*Disney Imagineering has created autonomous robot stunt doubles
なんと、棒人間はこの短期間で一足飛びに普通の人型へと進化を遂げているのだ。通常の生物の進化のような過程をすっ飛ばしているのは、やはり流石ロボットと言うべきなのだろうか。棒切れの体に頭部と手足だけでなく、人間らしい丸みを手に入れた「stickman」はもはや棒男ではなく「Stuntronics」となったのだ。人型の体を手に入れたからと言って、「stickman」時代の軽快さを微塵も失わず、寧ろ磨きをかけた感のある「Stuntronics」。華麗な宙返りと衝撃を押さえた見事な着地に加えて、素晴らしく美しい空中姿勢を見せてくれる。マーベル系映画のヒーローを彷彿とさせる余裕のある自然な姿勢維持には目を瞠るばかりだ。「Stuntronics」は「stickman」同様に複数のレーザー距離計によるサポートを受け、ジャイロシステム(慣性モーションセンサー)と加速度計を装備。レーザー距離計がレーザーを地面に照射し、跳ね返ってくる時間で地面までの距離を計測することで、自分の位置や角度を把握しているのだ。これにより、空中に飛び出した時に、鮮やかな回転技をきめ、カッコイイ空中姿勢を見せつけ、確かな重心を保ちつつ正確無比な着地を披露することが可能になっている。勿論、ただ単に着地するだけでなく、より素敵によりヒーローっぽいポーズを決めながら、飛び降りることだって余裕で出来る。更に、このロボットのスタントマンは、自律的で且つ自己修正を行い、空中パフォーマンスの度にリアルタイムで調整することも可能だ。
この派手派手しいパフォーマンスも難なくこなせそうな「Stuntronics」の開発で何がどう変わるのか。より映画や映像の世界に近いショーの実現だ。映画や映像化された作品を現実の世界でショーとして披露する場合、その世界を完璧に再現することは困難を極める。正直に言えば不可能に近いレベルだろう。スパイダーマンのように細い糸だけで飛び回り壁に張り付いて軽々と登ったり、アイアンマンのように空中を飛び回れ、と役者に要求するわけにはいかない。要求しても実際に出来るわけがない。つまり、映像の中とショーの世界は必ず剥離しており、その暗黙の了解の中で観客はショーを楽しんできた。その剥離を、この「Stuntronics」は埋めてくれるかもしれないのだ。映画撮影の際の危険なシーンをスタントマンが務めることがあるように、ショーの中の人間ではこなせない場面を「Stuntronics」代わりに行う。より高い所からの落下シーンや、空中戦で飛び交うシーンを、正確無比に動けるロボットが代わることで、生身の人間では限界のあった場面をより映画に近いリアリティで再現することが出来るわけだ。つまり、スターウォーズやアベンジャーズ、スパイダーマンを現実世界に引っ張り出すことが出来るようになるのだ。
Disney Researchは他にも人間の筋肉をのような構造で表情をリアルに再現するアニマトロニクスも開発している。この技術と「Stuntronics」を組み合わせればよりリアルなヒーローの再現を、生で見ることが出来る日が来るかもしれない。そう遠くない先に本当に実現しそうなこの技術たちに、今後も要注目である。
*DISNEY’S NEW ANIMATRONICS
参考
*
https://techcrunchjp.files.wordpress.com/2018/06/screen-shot-2018-06-27-at-2-02-31-pm.png?w=738 (Top画像)
https://assets.media-platform.com/gizmodo/dist/images/2018/05/24/roboy_20180524-w960.jpg (図1)
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執筆者:株式会社光響 緒方