【ポイント】
- 低分子化合物の濃度分布を染色せずに撮影できる顕微鏡を開発しました。
- 光パルスの時間波形を制御することで、レーザ1台で高速な撮影が可能になりました。
- 将来的に医薬品や化粧品の開発、食品、材料の品質評価などへの応用が期待できます。
東京農工大学大学院工学研究院の三沢和彦教授、同大学院工学府の伊藤輝将特任助教らの研究グループは、染色不要で生体観察できる次世代の顕微鏡技術として注目されているコヒーレントラマン顕微鏡の分野において、装置コストを削減しつつデータ取得速度を大幅に高速化した新たな顕微鏡システムの開発に成功しました。このシステムを用いると、小さな分子の濃度分布をありのままで撮影することが可能になります。例えば、生体組織の外から与えた薬剤が、どこにどれくらいの量だけ吸収されるのかを画像から解析することが可能になると期待されます。本研究成果は国際学術誌 Journal of the Optical Society of America B(米国光学会論文誌 B)に2017年4月25日に掲載されました。なお、この成果はAMED先端計測分析技術・機器開発プログラム(参画機関:東京農工大学、東京医科歯科大学、ワイヤード株式会社)の支援のもとで行われたものです。
研究の背景と経緯
私達の身の回りにある多くの物質は、原子同士が結合された分子の形で存在し、原子間の距離はそれぞれ異なる周波数で振動しています。ラマン顕微鏡は、分子に光が通過するとき、振動によって波長のずれた光(ラマン信号)がわずかに出ることを利用して、人間の目では見分けることができない化学物質の濃度分布を画像化する技術です。一般的に、生体に含まれる化学物質を区別して観察するには試料を染色する必要があります。しかし、低分子化合物のような小さな分子の中には、染色すると本来の生理活性作用が失われてしまうものもあります。そのような小さな分子の細胞や組織中の濃度分布も、ラマン顕微鏡を用いることで、染色せずにそのまま観察することが可能になります。近年、瞬間的に発光するパルスレーザでラマン信号が増強されることを利用した「コヒーレントラマン顕微鏡」が、高速な非染色撮影を可能にする次世代技術として注目されています。現在、国内外でこの技術を用いた先端研究が生命科学、創薬、医療などの分野で進められています。通常のコヒーレントラマン顕微鏡では、波長の異なる2つ以上のパルスレーザを用意し、さらにパルス光のタイミングを完全に合わせる必要があります。そのため、システムが複雑かつ高価となり、それがこの技術の普及を阻む大きな障害になっていました。研究グループでは、この先端顕微鏡をレーザ1台だけで実現する「位相制御コヒーレントラマン顕微鏡」を開発し実用化を推し進めるとともに、生体組織中での低分子化合物の濃度計測を実証した例をはじめ、生命科学分野での有用性を示してきました。
〔2015年9月8日本学プレスリリース〕
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