フェムト秒レーザー3Dナノプリンターで人工胎盤の作成に成功。

最近の3Dプリンターは生物も作れる。「イキモノ」ではなく「ナマモノ」の方だ。
食用肉や海鮮、生野菜の話では勿論なく、人間や動物の生体器官のことだ。ハーバード大学が腎臓の主要機能を3Dプリンターで再現することに成功した件を始め、心臓、膵臓、肝臓等を作成する試みが世界各国で行われている。また、薬剤の研究に使われる組織や器官の作成、或いは、関節・靭帯再生の為の細胞が育つ足場作りや、軟骨を形成して移植する方法などが研究されている。

3Dプリンターで生成された臓器類が人体に移植された例は未だ無いが、そう遠くない未来にはバイオプリンティングされた臓器の移植により、今までは治癒困難だった病から回復する人が大幅に増える日が来るのかもしれない。また、3Dバイオプリンティングは解明されていない体の器官の研究にも活用されている。例えば胎盤だ。

胎盤は妊娠期間だけ出現する器官で、胎児と母体を繋ぎ、酸素・栄養の供給、胎児の代謝機能、免疫機能を担っており、一般的に出産後数分から数十分で体外に排出される仕組みになっている。所謂へその緒と繋がっている部分だ。へその緒を介して母体と胎児は酸素を始め栄養や物質の様々なやり取りをするわけだが、その正確なプロセスは実は解明されていない。

当然と言えば当然だが、胎盤があるということはそこには胎児がいる。直接調査/検査をするということは、胎児と母体を危険にさらす可能性がある、ということに他ならない。その為、人間の胎盤の透過性は今現在も解明されないままとなっている。しかし、母体が何らかの疾患を持つ場合に、胎児への栄養他の輸送に影響が出る可能性がある際に、仕組みが解明されていないことから、実際にどんな影響が出るのかを正確に知る為の研究が進展し辛い状況が続いてきた。その解決策として、オーストリア・ウィーン工科大学が作り上げたのが、高解像度3Dプリンターで作られた本物のような人工胎盤モデルだ。

特製のフェムト秒3Dレーザーナノプリンターで製作されたそのモデルは、マイクロ流体チップの中に、生体適合性に優れたヒドロゲルを使用して、実際の胎盤と同じように表面に細かな絨毛を作り、そこに胎盤細胞を移植。本物に非常に近い関門の再現に成功している。この胎盤モデルは、胎児と母親のそれぞれを表すパーツに分けられており、空間プロセスで両者を隔てる人工胎盤膜を製作したという。下の図の赤い部分が胎児、青い部分が母体を表している。その境界を区切っている灰色の部分が、今回開発された生体高分子膜の人工胎盤だ。

行われたテストでは、このマイクロ流体チップの中にへその緒と胎盤由来の細胞と培養液を入れ観察したところ、本物の胎盤と同様に胎児部分と母体部分での物質のやり取りが行われていることが確認出来た。

この結果をうけて、胎児と母体の間で栄養となるグルコースがやり取りされる仕組みや、血糖や血圧、母体が摂取した薬物が胎盤に与える影響などを研究することが可能になると期待されている。更に、この人工生体膜は胎盤だけではなく、血液脳関門や胃、腸等の研究にも役立つと考えられている他、患者個人に合わせた治療法の開発や、動物実験に代わる新たな実験方法として、この3Dナノプリンター技術は大いに注目を集めている。

参考
*GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180815-3d-printed-artificial-placenta/
https://i.gzn.jp/img/2018/08/15/3d-printed-artificial-placenta/a01_m.jpg (図2)
https://i.gzn.jp/img/2018/08/15/3d-printed-artificial-placenta/a03_m.jpg (Top画像)

*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52263921.html
http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/1/7/1715e38b.jpg (図1)

*ウィーン工科大学
https://www.tuwien.ac.at/en/news/news_detail/article/126119/

執筆者:株式会社光響  緒方