最大の陸生哺乳類はアフリカゾウ、水陸含めればシロナガスクジラ。では最大の魚類はと言えば、「ジンベエザメ」だ。ジンベエザメは温かい海を好み、熱帯、亜熱帯、温帯の表層海域を回遊しているが、稀に湾内やサンゴ環礁に姿を見せることもある。日本では海遊館と美ら海水族館で見ることができるが、大きな体でゆったりと泳ぐ姿はなんとなく和むものがある。実際、ジンベエザメはサメとは言っても、所謂「ジョーズ」なホオジロザメや食欲旺盛魚肉もお肉も大好きなイタチザメなんかとは違って、サメとしては少数派のオキアミやプランクトン、小魚を濾過摂食するタイプなので人間が近づいても比較的安全な巨大生物だ。水族館に行けばデフォルメ化されたぬいぐるみや、キャラクター商品的なものも多い人気者となっている。ところがこのジンベエザメ、未だ色々と謎に満ち溢れた魚であるということはあまり知られていない。
水族館にもいるぐらいだからまさかそんなことは、と思うかもしれないが、ジンベエザメが卵胎生(体の中で卵を孵してある程度成長してから出てくる)だということすらも、判明したのは1995年という近年っぷりだ。なんと、どれぐらいのサイズまで成長するのか、寿命は何年くらいなのかということすらも正確には分かっていないのが現実だったのだ。
ジンベエザメの謎を解明すべく、米・ノバ・サウスイースタン大学 (NSU) のガイ・ハーベイ研究所(GHRI)は10年に渡って研究を続けてきた。研究チームはメジャーとレーザー距離計、カメラを使って水中でジンベエザメ44匹(雄40匹、雌4匹)の体長を計り、それを継続して実施することで体長から年齢を予測する為だ。計測したデータを方程式に当てはめると、雄のジンベエザメの成人年齢は25歳、寿命は130歳と判明したという。ウミガメやシロナガスクジラよりもご長寿さんということになる。因みに魚界の最長寿はニシオンデンザメの400年。関ヶ原の合戦の頃に生まれた個体が生きていることになる。長寿もここに極まれりという感じだ。また、雄は平均19mまで成長することも分かった。平均ということはこれよりも大きい個体もいるということで、正確ではないとされてきた最大個体サイズ21mも実際に存在するのかもしれない。
それにしても、水中で動く生物、しかも特大サイズの大きさを計測するというのは大変なことだ。
水族館ではジンベエザメと一緒にダイバーが水槽に入り、メジャーで巨体を測ることが多いようだが、ジンベエザメは身体を横にくねらせて泳ぐため正確な計測は困難だった。
そこで開発されたのが、「laser photogrammetry」だ。レーザーポインターで対象にスケールを当て、写真を撮ってサイズを推定するアイテムだ。
シンプルな見た目同様に計測方法も単純明快だ。ジンベエザメに直径50cmのスケールを当てて、撮影した画像からその全長を割り出す仕組みだ。仕組みは単純、しかも安価で作れるということで言うこと無しに見えるこの水中巨大生物計測装置だが、やはり問題点があり、水中ではレーザーが減衰してしまい、接近しての作業が必須となってしまう。ジンベエザメの計測には使えても、所謂「人食いザメ」系統に使うには人間の命が危険すぎる状態になってしまう。更に、ここでも前述した体を横に振って泳ぐジンベエザメの泳ぎ方が問題となってくる。体が直線になっている時に撮影しなければ正確なデータが取れないのは「laser photogrammetry」も同じだ。成功するまで何度もチャレンジし、長期戦も辞さない構えで行かなければならないだろう。
人間の子供の成長を確認する為に身長を測るように、ジンベエザメに限らず生物の体長は、成長や個体群サイズの推定には欠かすことの出来ないデータだ。ノバ・サウスイースタン大学のように、長期的に計測を続けることで、生態を詳しく解明する糸口となっていくのだ。
最後にジンベエザメ豆知識をいくつかご紹介しておこう。彼らは個体識別にも使われる美しい模様の皮膚を持っているが、何と厚さは平均して15cm程もあり、全身仕様の盾として外敵から身を守っている。感覚的には、全身をトラック用タイヤが覆っている、というような状態だとか。更に驚愕の豆知識が、ジンベエザメの脳味噌だ。平均19mにもなるジンベエザメの脳だ。如何程の大きさだろうか時になるところだが、なんとそのサイズは「ピーナッツ」と同じくらいだそうだ。あの、お酒のお供にも嬉しい豆類、所謂、落花生。それと同じくらいだというのだ。なかなかの衝撃だ。あの巨体でゆったり泳ぎながら、あまり複雑な事を考えずにのんびり生きているのかと思うと、少しうらやましい気がしないでもない。とは言え、敵の少ない巨体に成長するまでは過酷なサメ的人生なのだろうから、それはそれで大変なのかもしれないが。
参考
*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52264533.html
*ハイアイアイ臨海実験所
http://hiiaymbl.seesaa.net/article/194086610.html
http://hiiaymbl.up.n.seesaa.net/hiiaymbl/image/camera-thumbnail2.jpg?d=a1 (図1)
*Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%83%99%E3%82%A8%E3%82%B6%E3%83%A1
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f1/Whale_shark_Georgia_aquarium.jpg/1280px-Whale_shark_Georgia_aquarium.jpg (図2)
*美ら海水族館
https://churaumi.okinawa/fishbook/00000510/
https://churaumi.okinawa/userfiles/fish_images/jinbee.JPG (Top画像)
執筆者:株式会社光響 緒方