一昔前は何処のご家庭にもあった百科事典。動物や星座や花、興味のあるものを子供たちが眺めて楽しむというような姿が日常的な光景の一部だった時代もあったわけだが、悲しくも嬉しくも、時代が変遷して行くのは避けられないものだ。紙の百科事典の存在感が薄れ、今日の百科事典はインターネット上にあるようだ。そう、誰もがご存知【wikipedia】だ。
閲覧は自由で無料、誰でも自由に編集できるこのインターネット百科事典については、その内容の正確性についてはさて置き、ここで細々述べる必要がない程度には世の中に浸透している。この有名百科事典wikipediaが、月へ進出することとなったそうだ。
正直これだけだと、宇宙人ならぬ月人でも発見されたのか、友好関係まで成立しているのか、と言いたくなってしまうが、残念ながら宇宙人の存在も月人の存在も確認されていないようなので、勿論そうではない。Wikipediaのアーカイブを月に作ってしまおう、という話だ。
計画しているのは、非営利団体の「the Lunar Library」。英語版wikipediaや非英語の人気ページの他、1,500種以上の言語アーカイブ「ロゼッタプロジェクト」等月へ送られ保存される計画となっている。言ってみれば、月に膨大な蔵書量を持つ図書館をつくる計画だ。当然のことながら送られるのは紙に印刷された書籍ではないし、既存のデバイスは宇宙線に耐えられず腐食してしまう。使われるのは、宇宙線や温度変化に強いニッケル板だ。
一辺1.7cmの四角形、厚さ20μという極薄の小さな金属板に、特別性のレーザーを使って文字を刻む。切手サイズの板1枚に刻まれるのは、驚愕の16,000ページ分のデータだ。人力では到底不可能な離れ業もレーザーなら可能になるということか。光学顕微鏡で1,000倍に拡大すれば読むことができるそうだ。
CDサイズのケースに何枚かずつこのニッケル板を入れて積み重ね、2,500万~5,000万ページの情報を記録できるとのこと。我々の祖先は情報を未来へ残す為に文字を開発し、紙や石や木に刻んで残そうとしてきた。そして、悲しいかことに残し切れなかったものは多い。古くは、紀元前300年頃、エジプト・プトレマイオス一世によって建てられたアレクサンドリア図書館。かのアルキメデスを始め当時の優れた学者が集った知の殿堂は、繰り返された戦乱とローマ帝国のキリスト教化により、キリスト教徒から執拗な攻撃を受けたこと等で、建造物を含め消失。
南米では、唯一文字文化があり、複雑で独特な文字を使っていたマヤ帝国も、スペインの侵略・支配を受け、キリスト教の布教に伴い異端として、マヤ文字の使用禁止、焚書が行われ、現存する書物は4冊しかない。
他にも散逸・消失してしまった情報は、私たちが思うよりもきっと多いのだろう。地球全体の情報が確認不可能な状態になってしまう、というような状況は来ないに越したことは無いが、そうならない保証は無いし、何事にも備えは大事だ。
2020年には、人類の歴史や文化のバックアップ用図書館が月に開館する予定だ。いつかその膨大な量のデータを調べに訪れるのは、遠い未来の地球人なのか、地球出身の他の生物なのか、或いは、遥か遠い銀河系からやって来るかもしれない宇宙人なのか、非常に気になるところだ。
参考
*GIZMODE
https://www.gizmodo.jp/2018/05/wikipedia-the-lunar-library.html
*THE VRGE
https://www.theverge.com/2018/5/15/17353194/lunar-library-wikipedia-moon-arch-foundation-astrobotic-spacex
https://cdn.vox-cdn.com/thumbor/YlIWY6RBp8Aew4sPJbMyXKinxqU=/0x0:5184×3456/920×613/filters:focal(2178×1314:3006×2142):format(webp)/cdn.vox-cdn.com/uploads/chorus_image/image/59738485/IMG_7128.0.jpg (図1)
https://cdn.vox-cdn.com/thumbor/9tftLiNcA05IwkEMEEs6JP3JPI4=/0x0:1777×802/920×0/filters:focal(0x0:1777×802):format(webp):no_upscale()/cdn.vox-cdn.com/uploads/chorus_asset/file/10841999/Single_stack_of_stamps.jpg (図2)
*wikipedia
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/80/Wikipedia-logo-v2.svg/103px-Wikipedia-logo-v2.svg.png (Top画像左)
http://www.selene.jaxa.jp/ja/document/image/ref_Nearside_b2.png (Top画像右)
執筆者:株式会社光響 緒方